一般的に「ヘルペス」と呼ばれるものは、皮膚や粘膜に症状を起こすヘルペスウイルスによるものです。ウイルスにはいくつかの種類があり、それぞれ起こす症状や好発部位は異なります。ウイルスに一度感染すると生涯体の中に潜み、疲れがたまり免疫力が低下したときに活性化し、皮膚に赤みや水ぶくれなどの症状を起こします。
今回はこのヘルペスを取りあげ、症状が出る原因や治療法、日常生活に役立つ内容を解説します。
ヘルペスとは?
「ヘルペス」の種類はいくつもあり、ヘルペスが出やすい状況も知られています。ここでは、ヘルペスの原因や主な症状、臨床で使われている検査方法などを解説します。
原因
ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV)によるもので、さらに単純ヘルペス1型(HSV-1)と単純ヘルペス2型(HSV-2)の2型に分かれます。1型は唇や顔、2型は性器周辺や下半身に出やすいウイルスです。初感染後は体の知覚神経節と呼ばれるところに潜伏し続け、以下に挙げるような免疫力が低下したときに再発を繰り返します。
- 忙しいとき
- 寝不足のとき
- 仕事や試験でストレスがたまっているとき
- 風邪をひいたとき
- 季節の変わり目
- 生理前(排卵後)
- 薬剤の服用中(抗がん剤、副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤など)
- レジャーなどで強い紫外線を浴びた2~3日後
- 時差を感じているとき
- 過度に飲酒をしたとき
免疫力が低下していると、ウイルスは活性化しやすいです。潜伏していたウイルスが知覚神経節から飛び出し、神経を通ってウイルスが皮膚表面まで広がってくるためにヘルペスの症状が出てきます。
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症状
ヘルペスの症状は、「初感染」「再発」「体調」によっても症状は多少異なります。一般的には、ヘルペスの症状は2週間ほど次のような段階で続きます。
口唇ヘルペスの症状の流れ
- 前駆期(ピリピリ、むずむず、チクチクなどの違和感がある)
- 初期症状(前駆期から1日ほどで赤く腫れてくる)
- 2~3日ほどで腫れは水ぶくれに変わっていく
- 回復期(水ぶくれはかさぶたとなり、しばらくすると剥がれる)
性器ヘルペスの症状の流れ(初感染の場合)
- 潜伏期(性行為で感染後4~10日ほど、発熱やだるさ、かゆみが出ることもある)
- 潜伏期の10日ほどの間に外陰部の不快感やかゆみが出て、痛みを感じ始める
- 痛みがひどくなり、外陰部の広範囲の皮膚粘膜に皮がむけたようになり、水ぶくれなども出る
- 無治療で約3週間、服薬すれば1週間ほどで痛みや腫れが収まる
検査・診断
症状がヘルペスウイルスによるものであるか調べる検査には、次のような種類があります。受診する科としては皮膚科や一部の内科、性器周辺であれば婦人科や泌尿器科、皮膚科、性病科などとなります。
- 病変部位の観察
- 抗原検査(病辺部位の浸出液や血液検査でウイルスの有無を調べる)
- 抗体検査(血液検査により抗体の量を調べる)
- ウイルス分離培養法
- 核酸診断法
- HSV脳炎の場合、髄液のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査やMRI
抗原検査であれば15分ほどで結果がわかるため、外来では主流の検査方法です。一方抗体検査は結果が出るまで数日かかります。なお抗原検査は初感染から24時間、抗体検査は初感染から1ヶ月経過してからでないと正確な判断がつきません。
これより前に行った場合、感染していても陰性の結果が出てしまうこともあります。診察(臨床的評価)と検査の結果、初感染の場合抗体が陽性(血清型の抗体陽転)、抗原検出によってヘルペスであると診断されます。
ヘルペスの種類
ヘルペスの症状を起こすヘルペスウイルスは9種類あります。この中で通常ヘルペスと呼ばれるウイルスには「単純ヘルペス(HSV-1、HSV-2)」と「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)」の2種類に大きく分けられます。
HSV-1(単純ヘルペス1型)
HSV-1(単純ヘルペス1型)は、主に幼少期に口から口への接触によってウイルスが移り、顔の三叉神経節と呼ばれるところに生涯潜み、口唇などの顔や頭部に症状が現れます。世界中に広く存在し、HSV-1には世界の50歳未満の37億人(約67%)が感染しているほどです。
口唇や東部以外、角膜炎や歯肉口内炎、咽頭炎、ヘルペス脳炎などを起こす場合もあるウイルスです。1型は口唇ヘルペスとも呼ばれますが、一部は一定割合で性器ヘルペスの原因にもなります。
HSV-2(単純ヘルペス2型)
HSV-2(単純ヘルペス2型)は、性行為によってうつります。腰回りの腰・仙骨神経節に潜み、初感染では全身、再発では下半身を中心に症状を引き起こすウイルスです。1型同様、ウイルスの感染自体は生涯続きます。HSV-2には世界の15歳〜49歳の約4億1700万人が感染しているとされます。
性器ヘルペスは再発もしますが、再発の大半は初回よりも症状は軽度です。1型と2型の単純へㇽペス、後述の水痘・帯状疱疹ウイルスのほか、ヘルペスウイルス科の9種類のなかには突発性発疹の原因である「ヒトヘルペスウイルス6型と7型」、伝染性単核症の原因の「EBウイルス」、カポジ肉腫を起こす「ヒトヘルペスウイルス8型」なども存在します。
VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)
帯状疱疹はヘルペスウイルス属の水痘・帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster virus : VZV) が活性化したことで、体の片側の神経領域や顔を含む頭部に腫れた赤い斑点、水ぶくれなどの症状を起こすものです。帯状疱疹の俗名に「胴巻き」がありますが、実際は胴体以外にも顔や手足にも症状は現れます。
頻度としては稀ですが、脳炎や髄膜炎を併発することもあり、皮膚症状が落ち着いた後も長いと数年間神経痛(PHN)が残る場合もあるのが特徴です。一般的には、帯状疱疹の症状は約3〜4週間ほど次のような段階で続きます。基本的には外来診療で対応しますが、症状がひどい場合は入院を要するケースもあります。
帯状疱疹の症状の流れ
- 初期症状(発疹が出る1種間ほど前、皮膚にかゆみや痛み、筋肉痛のような症状)
- 急性期痛(痛みを伴う赤い斑点が体の片側の神経節に出て、軽度の発熱なども起こる)
- 赤い斑点の上に水ぶくれができ、やがて乾いてかさぶたになる
- 皮膚症状が落ち着いた後も、神経痛が半年~数年間残ることもある
単純ヘルペスとの違いをまとめると、次のとおりです。
単純ヘルペス | 帯状疱疹 | |
ウイルス | 単純ヘルペス1型ウイルス(HSV-1)単純ヘルペス2型ウイルス(HSV-2) | 水疱・帯状疱疹ウイルス(VZV) |
症状 | 発疹や痛みが一部分だけ起こり、症状はあまりひどくない | 体の広範囲に起こり、飛び地のように体のあちこちに症状が出る |
好発年齢 | 20歳以降が中心 | 20歳前後と50歳以降が中心 |
感染力 | 強い感染力を持つ | 水ぼうそうにかかったことのない人以外にはうつりにくい |
後遺症 | 後遺症はほとんどない | 半年~数年神経痛が続くこともある |
再発※個人差あり | 一度かかると再発することも | ほとんど再発しない、再発率は約6% |
ワクチン | なし | あり(重症化防止目的) |
ヘルペスの治療法
ヘルペスの治療法については、症状の出ている部位や程度にもよりますが飲み薬を中心に補助的に塗り薬などを使います。薬は決められた頻度、期間使い続けるのが大切なので自己判断で注意しないようにしましょう。
飲み薬
ヘルペスの治療では、以下のような抗ウイルス薬の飲み薬が中心です。抗ウイルス薬はウイルスの増殖を防ぐ効果があるため、できるだけ早期に服薬を開始するのが大切です。
主な薬剤 | |
単純ヘルペス(1型、2型) | 抗ウイルス薬・ファムシクロビル(1日3回、5日間ほど)・バラシクロビル(1日2回、5日間ほど)・ファムシクロビル(1日2回、1日間。あらかじめ処方を受けておき症状が出たらすぐ服薬、12時間後に2度目を内服で終了) |
帯状疱疹 | 抗ウイルス薬・アシクロビル・バラシクロビル・ファムシクロビル・アメナメビル※これらの抗ウイルス薬を皮膚症状が出てから72時間以内に服用開始、7日間使用 鎮痛薬・アセトアミノフェン(カロナール)・ロキソプロフェンナトリウム水和物(ロキソニン)・トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン(トラマドール) 帯状疱疹後神経痛に対して・プレガバリン(リリカ)・ミロガバリンベシル酸塩(タリージェ)・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)・アセトアミノフェン・プレガバリン・各種抗うつ薬・オピオイド |
アメナメビル(アメナリーフ)
このほか、ヘルペスを年6回以上再発する症例の場合、再発抑制療法の対象となり1年間のバルトレックス(抗ウイルス薬)を1日1錠内服し続ける治療法などもあります。また、入院を要するような帯状疱疹の重症化症例では、抗ウイルス薬(アシクロビル、ビダラビン)の点滴も行われます。
塗り薬
飲み薬の補助を目的に、症状が軽い場合や治りかけに塗り薬は効果的です。飲み薬は体の中のウイルスにも効果がありますが、塗り薬は皮膚に出てきた症状にしか効きません。医療機関の処方薬のほか、ドラッグストアで購入できる塗り薬もあります。塗り薬とともに、外用薬として潰瘍ができた場合は潰瘍治療薬を貼って治療します。
主な薬剤 | |
単純ヘルペス(1型、2型) | ・抗ウイルス薬(ゾビラックス軟膏、アラセナA軟膏など)※ヘルペスの塗り薬は、処方薬のほかドラッグストアでも購入可能※性器ヘルペス再発症例の場合、抗ウイルス薬(ビダラビン軟膏、アシクロビル軟膏) |
帯状疱疹 | ・非ステロイド抗炎症薬(コンベック軟膏、アズノール軟膏など)・化膿疾患外用薬(水ぶくれができた後の二次感染防止目的) |
ヘルペスの予防方法・日常生活での注意点
ヘルペスの治療中は、薬と共に日常生活にも工夫が必要です。日常生活では次のような点に気をつけ、療養に努めましょう。
患部を清潔に保つ
ヘルペスの皮膚症状が出ている場合、患部を清潔に保つことが大切です。症状が出て気になる部位は触らず、手指も清潔にしておきましょう。症状が出た部位に触れる下着や衣類はよく洗い、天日干しできるとなお良いです。ほかの洗濯物と一緒に洗えますが、汚れがひどい場合はさきに手洗いをします。お風呂も構いませんが、浴室の椅子は使用前後によく洗い流してください。
スキンケアやメイクは患部を避ける
スキンケアやメイクに関して、刺激になるので極力控えてください。女性の場合、頭部や顔に皮膚症状が出た場合は人目も気になります。メイクで隠したいところですが化粧は刺激になるため、患部(症状が出ている部位)は原則避けましょう。かさぶたができてからは、無理にはがさず、ほかの方にうつさないようマスクをするのも効果的です。
食生活を見直す
ヘルペスになった場合、日頃の食生活を見直すことも大切です。ヘルペスに対して、食べ物ではリジンを含むそば、サバ、かつお、牛肉、鶏肉、豆腐、ヨーグルトなどがよいとされます。一方アルギニンを含むチョコレートやナッツはできるだけ避けましょう。また、アルコールは炎症を悪化させるリスクがあるので症状があるうちは禁酒をおすすめします。
十分な睡眠をとる
疲れがたまっている状況では免疫力も低下します。日常生活では十分な睡眠を確保してこそ治療の効果が発揮されます。日中の適度な運動と共に、しっかり睡眠をとって規則正しい生活を送るよう心がけてください。
適度に運動をする
ヘルペスのときは、日中の適度な運動も構いません。ただし、強い紫外線を浴びるような運動やレジャーは控えてください。もし汗をかく場合、皮膚をできるだけ清潔にするよう気をつけてください。
まとめ
今回は私たちの生活に身近なヘルペスについて、原因や種類、有効な治療法や日常生活の予防方法を中心に解説しました。疲れがたまっているときなどは特に症状が出やすいため、過度に無理をしないような心掛けは大切です。また、異常が現れた場合には早めに医療機関を受診しましょう。早期診断、早期治療が大切です。
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