「サイトメガロウイルスの抗体値が低いので、サイトメガロウイルス感染症に気をつけてください。」今このページをご覧の方は、病院でこのように言われて検索されているのではないでしょうか?特に妊娠中の方はサイトメガロウイルス感染症が新生児に及ぼす影響を聞き、不安になられているかと思います。
サイトメガロウイルスに感染するとどうなるの?そもそもサイトメガロウイルスってなんなの?どうやって気をつけたらいいの?治療法はあるの?など、本記事では上記のような疑問に回答したいと思います。
サイトメガロウイルスとその感染症とは?
そもそもサイトメガロウイルスとはどんなウイルスなのでしょうか?実は、日常生活でありふれているウイルスです。具体的に言えば、成人の60%以上は感染経験があり、ほとんどの方は幼児期に気付かないうちに感染しています。感染した場合でも風邪症状にとどまることが多く、症状が出ないこともあります。
しかし、妊婦さんになってから感染した場合には、子宮内の赤ちゃんにまで感染が起こる可能性があります。妊娠中に子宮内の赤ちゃんにサイトメガロウイルスが感染することを先天性サイトメガロウイルス感染症と呼びます。日本で生まれてくる難聴の5人に1人はこの先天性サイトメガロウイルス感染症が原因です。
妊娠中にサイトメガロウイルスに初めて感染すると、サイトメガロウイルスの感染が子宮内の赤ちゃんにまで及ぶことが少なくありません。その結果、赤ちゃんに先天性の障害が合併する可能性があります。(難聴、神経発達遅延、運動障害、てんかん、視力障害など)
そのため私たち医師は、サイトメガロウイルスの抗体をお持ちでない妊婦さんに対しては、この感染症の周知とその予防法をお伝えしています。
サイトメガロウイルスに一度でも感染したことがある場合は、体内に抗体を持っています。抗体とはウイルスや菌などが感染した際に獲得する防御機構です。抗体があると感染した経験があることが分かります。抗体の獲得にはウイルスや菌の侵入から約2週間掛かります。
抗体があると、体内にウイルスが侵入してきても迅速にウイルスを抑え込むため、ウイルスが体内に入ったとしても増殖しないしません。だから、ウイルス感染による症状が起こらないんです。抗体値が低いというのはつまり、ウイルスが侵入してきても対抗するのに時間がかかるということを示しています。
抗体のない妊婦さんのうち約1%の方がサイトメガロウイルスに感染します。その際、感染時に40%の確率で胎児への感染が起こります。さらにその中でも約10%程度に対し、精神発達遅滞、運動障害、難聴などの障害が発症します。つまりサイトメガロウイルスの抗体を持っていない場合、0.04%の確率で胎児が重篤な症状を発生します。逆にいえば、99.6%の赤ちゃんには何も問題はないんです。だから抗体がなくても過度の心配は不要です。ただ、感染のリスクを抑えるために、感染経路を理解した上でしっかりと予防してください。
サイトメガロウイルスの感染経路と予防法
サイトメガロウイルス感染症にかかる主な要因は下記の5つです。
- サイトメガロウイルス感染者の唾液や尿が口に入ることでの感染
- サイトメガロウイルス感染者からの精液を介した感染
母児感染の場合
- サイトメガロウイルスに感染した母親から胎盤を介した感染
- サイトメガロウイルスに感染した母親から産道を介した感染
- サイトメガロウイルスに感染した母親から母乳を介した感染
特に心配される方が多いのは、サイトメガロウイルス抗体を持っておらず、二人目を妊娠された場合です。妊娠時に上のお子さんが幼稚園や保育園に通われていて、サイトメガロウイルスに感染しやすい状況にある場合、抗体のないお母さんは本当に不安になってしまいますよね。
先述の通り99.6%の確率で問題ないのですが、そうは言ってもやっぱり心配です。少しでも不安を軽減して頂くため、感染の予防法を紹介します。下記のあとは石鹸と水で手を洗ってください。
- オムツの交換
- 子どものおもちゃを触る
- 子どもの食べた後の食器を触る
- 子どもの鼻水を触る
- 子どもの歯ブラシを使わない
※唾液や鼻水、尿との接触後は手を洗ってください。
他にも
- 性交渉の際はコンドームをつける
- オーラルセックスはしない
- 子供の食べ残しを食べない
- 子どもの涎がついた机や家具の表面を清潔にする
- 子供にキスする際は、唾液がつく可能性が低いおでこなどにし、ほっぺなどは避ける。(※ぜひいっぱい抱きしめてあげてください。)
- サイトメガロウイルスは乾燥に弱いので、布団などは天日干しをする。
何となく気をつけたら良いポイントは分かりましたでしょうか?
確かに抗体のないお母さんは心配になると思います。ただ、心配になり過ぎるとかえってお腹の赤ちゃんにもストレスがかかってしまいますので、正しい知識を身につけて、正しく警戒してください。
サイトメガロウイルスへの感染時期と症状
サイトメガロウイルスは感染する時期によって少し症状が変わります。
お母さんのお腹の中でサイトメガロウイルスに感染し、胎盤を経由してウイルスに感染した場合です。症状は難聴を伴う重篤なものから無症状まで幅広く、出生時には無症状でも後で、難聴や神経への後遺症を発症する場合があるので早期発見が望ましいです。なお診断には、生後3週間以内に赤ちゃんの尿で検査を行います。
出産時に産道経由で感染する場合や、母乳を介して感染した場合、ほとんどが軽症もしくは無症状です。ただし、早産や低出産体重児が感染した場合は、感染により症状が重篤化する場合が多く、肝機能異常や肺炎、単核症を発症します。そのため、お母さんがサイトメガロウイルスに感染している場合、早産や低出産体重児には母乳は避ける必要があります。
思春期以降の初感染
思春期以降に感染した場合は、伝染性単核症のような症状が現れます。具体的には下記の症状です。
- 発熱や倦怠感、関節痛、筋肉痛。
- リンパ節が腫れる
- 頭や喉の痛み
- 皮膚の湿疹
移植患者に対する感染症
移植の際には免疫機能を抑える免疫抑制剤を用います。その際に潜伏していたサイトメガロウイルスが活性化する場合があります。
HIV患者に対する感染症
HIVに感染しエイズを発症し、免疫を司る細胞(CD4陽性細胞)の血中濃度が下がってくると、サイトメガロウイルスに限らずあらゆる菌やウイルスにかかってしまいます。
妊婦さんがサイトメガロウイルスに感染しても、ほとんど症状が出ないか、もしくは風邪のような症状が出るだけです。そのため妊婦さんが自分で、「サイトメガロウイルスに感染した!」と気付くのは難しいでしょう。そのため、もし感染したかも…!と思ったら、かかりつけ医に相談してください。
以前は先天性サイトメガロウイルス感染症に対する治療法はないと考えられていました。しかし、2003年にガンシクロビルという薬剤で難聴の改善効果が報告されてから、積極的にこの治療が行われるようになっています。
ただし保険は適用されず、副作用も報告されているため、投与のメリットをこれらのデメリットが超えると判断された場合のみの投与となります。薬剤や治療について、詳しく知りたい方は神戸大学のホームページをご覧ください。
https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/cure.html
まとめ
サイトメガロウイルスは本当にどこにでもいるウイルスです。抗体がないと言われた妊婦さんは「どうしよう」と不安になってしまいますよね。でもそれはお子さんを守るために重要なことです。お子さんを思うからこその不安ですよね。
ただ、過度に恐れることはストレスとなってしまい、お子さんにとってかえってよくありません。文中にも記載した通り、唾液や尿に注意しながら手洗いをしっかり行い、正しく感染を防いでください。本記事により、少しでもサイトメガロウイルス感染症に対する理解が少しでも深まれば幸いです。
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参考文献
- https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/feature.html
- https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/hearing-loss.html
- https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/mother-to-be.html
- https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/407-cmv-intro.html
- https://medicalnote.jp/contents/160707-002-JJ
- https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/cure.html