中絶方法の吸引法・掻爬(ソウハ)法とは?違いや術前処置について解説

この記事を監修した医師
近都真侑
近都 真侑 
産婦人科医・産業医

近畿大学医学部卒業し、その後名戸ヶ谷病院で初期研修を経て千葉西総合病院と昭和大学の産婦人科にて勤務。ヤフー株式会社にて専属産業医を経て、JR東日本や株式会社ココナラなど述べ20社の産業医を歴任。

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川原正行
ルナレディースクリニック院長 / 産婦人科専門医・母体保護指定医

1998年岡山大学医学部卒業。岡山大学病院、広島中電病院、福山医療センターでの産婦人科研修を経て、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)にて医薬品・医療機器の承認審査に従事。こうのとりレディースクリニック、新宿レディースクリニックにて勤務の後、2021年よりルナレディースクリニック院長。

人工妊娠中絶にはさまざまな方法がありますが、日本で主に行われているのは「吸引法」と「掻爬(ソウハ)法」の2種類です。

2023年より妊娠8週までの中絶に「経口中絶薬」という選択肢も加わりましたが、所要時間の短さや成功率の高さから、現在も手術による中絶が一般的になっています。

この記事では「吸引法」と「掻爬(ソウハ)法」の違いやそれぞれの特徴、メリット、デメリットについて詳しく解説しています。

担当医からの説明を理解し、ご自身にとって最適な選択をするための予備知識として、ぜひご活用下さい。

中絶方法の吸引法と掻爬(ソウハ)法の違い

中絶方法の吸引法と掻爬(ソウハ)法の違い

人工妊娠中絶手術は大きく分けて「吸引法」と「掻爬法」の2種類があり、当クリニックでは吸引法での中絶手術を採用しています。

中絶手術の方法

どちらの方法にも共通していることは以下のとおりです。

  • 実施できる時期:妊娠6週頃から11週まで
  • 手術自体の所要時間:10~15分
  • 手術時は麻酔を使用し、痛みを感じない
  • 入院の必要がなく、日帰りでの手術が可能

「吸引法」と「掻爬法」の特徴や相違点は下表をご覧ください。

吸引法掻爬法
手術方法子宮内にストロー状の管を挿入し、子宮内容物を吸い出す方法日本で従来から行われてきた中絶方法トング状の器具で子宮内容物をつまみ出した後、スプーン状の器具で子宮内をかき出す方法
術前処置不要な場合が多い子宮口よりも太い器具を使用するため、手術前に子宮口を広げる処置がある
手術に伴うリスク子宮内膜を傷つけるリスクが低く、WHOが安全性の高い方法として推奨している医師の熟練度による影響を受けやすく、子宮を傷つけるリスクがある
費用の相場(健康保険は適用外)当クリニックでは術前検査から術後の診察2回までの総額で税込12万円
医療機関により料金体系は異なる
7万円~10万円程度
医療機関により料金体系は異なる
参照元:WHO|リプラ&日本助産学会訳|中絶ケアガイドライン エグゼクティブサマリー

吸引法

吸引法は、子宮内にストロー状の管を挿入して子宮内容物を吸い出す方法です。

吸引法のメリット
  • 前処置が不要で、患者さんへの負担が少ない
  • 子宮を傷つけるリスクが低い
  • 出血量が少ない
  • 医師の技術力による差が出にくく、安全性が安定している
  • 子宮内を傷つけるリスクが低いため、WHOが安全性の高い方法として推奨している
吸引法のデメリット
  • 使い捨て器具の使用により、費用が高くなりやすい
  • 掻爬法に比べて、複雑な滅菌処理が必要で、適切な滅菌処理を怠ると感染症のリスクにつながる

参照元:WHO|リプラ&日本助産学会訳|中絶ケアガイドライン エグゼクティブサマリー

掻爬(ソウハ)法

掻爬法は、日本で従来から行われてきた中絶方法で、トング状の器具であらかた子宮内容物を除去したあと、スプーン状の器具で子宮内をかき出す方法です。

掻爬法のメリット
  • 妊娠内容物を残さず摘出しやすい
  • 手術器具がシンプルで洗浄・滅菌が容易なため、手術後の感染が起きにくい
  • 吸引法よりも費用を抑えやすい
  • 吸引法に比べて、実施している医療機関が多い
掻爬法のデメリット
  • 前処置が必要なため、吸引法と比較して所要時間が長い
  • 前処置に痛みや気分不快を伴うことがある
  • 吸引法に比べて、子宮内膜を傷つけるリスクがある
  • 出血量が多くなる場合がある

吸引法は2種類ある

吸引法は2種類ある

吸引法にはさらに「手動真空吸引法(MVA)」と「電動吸引法(EVA)」の2種類があります。

それぞれの手術方法、メリット、デメリットを見ていきましょう。

手動真空吸引法(MVA)

手動真空吸引法(MVA)は、手動吸引器を使用し、プラスチック製の細く柔らかい管を子宮内に挿入して内容物を吸引する方法です。

当クリニックでは手動真空吸引法(MVA)を採用しています。プラスチック製のしなやかな器具は、さまざまな子宮の形状(子宮の後屈や奇形、子宮筋腫による変形など)にも柔軟かつ安全に対応でき、中絶手術の中でも子宮に優しい方法です。

より細い器具を使用するため、手術時に子宮口を拡張する度合が小さく、麻酔が切れたあとでも痛みを感じにくいと言われています。

手術で吸い出した組織は管につながった注射器にたまる仕組みになっており、組織の損傷が少ないため流産時の染色体検査、組織検査にも対応可能。

MVAのメリット
  • 柔らかい管を使用するため、器具を挿入する時や手術中の痛みがほとんどない
  • 子宮内を傷つけるリスクがほとんどない
  • 手動で吸引するため、吸引圧の細やかな調整ができる
  • 使い捨ての器具を使用するため、感染症のリスクがほとんどない
MVAのデメリット
  • 費用が高くなりやすい

◾️当クリニックの費用

人工妊娠中絶(吸引法)の料金表費用
初診料(超音波検査、血液検査)15,000円
手術費用
※事前検査後に決める手術日によって費用が変わります。
84,000円〜
術後の診察(1回目)0円
術後の診察(2回目)0円
上記は税込の金額です。

電動真空吸引法(EVA)

電動真空吸引法(EVA)は、金属製の筒状器具を子宮内に挿入し、電動ポンプで陰圧をかけて子宮内容物を吸い出す方法です。

電動ポンプによる強い吸引力があるため、妊娠6週から11週までの初期中絶のうち、後半の時期の中絶をより効果的に実施できるといわれています。

吸引力が強く安定していることにより、迅速な手術が可能で、手術を行う医師の熟練度の影響を受けにくいという特徴もあります。

EVAのメリット
  • 強い吸引力があるため、子宮内容物の除去がより確実
  • 手術時間が短い
EVAのデメリット
  • 金属製の器具を使用するため痛みが出やすい
  • 電動式の吸引装置による大きな音が出る
  • 複雑な洗浄・滅菌処理が必要で、適切な滅菌処理を怠ると感染症のリスクにつながる

吸引法は前処置(術前処置)を実施しない

吸引法は前処置(術前処置)を実施しない

吸引法の最も大きな特徴は、術前処置が不要な場合が多い点です。

掻爬法は器具が子宮口よりも太いため、手術の数時間前に細い棒を子宮口に挿入する処置があります。この処置を前処置(術前処置)といいます。

細い棒は海藻などからできており、膣内の水分を吸収して膨らみ、手術までの間に子宮口を少しずつ広げてくれるのです。

前処置では麻酔を使用しないため、痛みを伴うことがあり、一時的に気分が悪くなることもあります。

これに対して吸引法では、子宮内に挿入する器具が細いため、事前に子宮口を広げる必要がありません。

前処置がないことで患者さんの痛みを軽減し、来院から帰宅までの所要時間も短縮できることは大きなメリットと言えるでしょう。

まとめ

妊娠6週から11週までの人工妊娠中絶の方法は、主に「吸引法」と「掻爬(ソウハ)法」の2種類があります。

吸引法はWHOが推奨する安全性の高い方法です。

吸引法は「電動吸引法(EVA)」と「手動真空吸引法(MVA)」の2種類があり、当クリニックでは、より安全に患者さんの負担を抑えられるMVAを採用しています。

吸引法は前処置が不要なことが多く、痛みや所要時間の面で患者さんの負担を最小限に抑えられます。

ご自身に合った中絶方法を選ぶためには、担当医へご自身の状況や重視したい価値観を素直に話した上で、担当医からの説明を理解し、納得することが大切です。

この記事を、相談や説明を受ける際の予備知識としてご活用いただければ幸いです。