A型肝炎は、HAVと呼ばれるA型肝炎ウイルスによる感染症です。主に食中毒や旅行、性行為などが原因で感染し、発熱や頭痛、食思不振などの症状を伴います。基本的には、自然に症状は良くなりますが、内科や消化器科を受診するのがおすすめです。
ここでは、A型肝炎の症状や感染経路などに加え、治療方法や予防対策についても解説します。本記事を最後までご覧いただければ、A型肝炎に対する理解が深まり、適切な対策を取れるようになるでしょう。
A型肝炎とは?
A型肝炎とは、A型肝炎ウイルス(HAV)による感染症を指します。そもそも、肝炎とは肝臓の細胞に炎症が生じ、肝細胞が破壊されていく症状のことです。
「A型肝炎になったかも?」と考えた際に最初に確認するべきポイントについて詳しく解説します。
A型肝炎は発熱や頭痛など、風邪に似た症状を伴うため、正しく判別ができないケースもあるでしょう。説明する情報を早期発見に役立ててください。
感染を疑った場合に確認するポイント
「A型肝炎かもしれない…」と感じたときは、以下のポイントを確認してみてください。
・急性発症の発熱があるかどうか
・黄疸(眼や皮膚が黄色くなる)があるかどうか
・肝逸脱酵素(ASTやALT)の上昇があるかどうか
肝逸脱酵素は検査をしないと分かりませんが、急性発症の発熱や黄疸は体感や目視で判断できます。一つでも該当する項目がある場合、早急に内科や消化器科を受診するのがおすすめです。
発症する可能性のある人
A型肝炎を発症する可能性のある人は以下のとおりです。
・A型肝炎に感染したことがない人(A型肝炎の免疫がない人)
・A型肝炎の予防接種を受けていない人
・A型肝炎に感染している人と濃厚接触した人
・ウィルスに汚染された食品や水分を摂取した人
当てはまる場合は感染を疑い、症状を確認しましょう。
流行しやすい時期
A型肝炎が流行しやすい時期は1月〜5月です。2003年に実施された「国立感染症研究所(NIID)の調査」を参考に、A型肝炎の患者数について概要をまとめます。
参照元:国立感染症研究所「A型肝炎とは」
・3月の患者数が最も多い
・3月に次いで1月と4月の患者数が多い
・7月と8月は患者数が最も少ない
主要な感染経路は牡蠣を始めとする海産物で、患者の1割が海外渡航からの帰国者であることも分かっています。
感染しやすい年代
A型肝炎が感染しやすい年代は40〜50代です。1999年〜2003年にかけて実施された「国立感染症研究所(NIID)の感染症発生動向調査報告」を参考に、A型肝炎が感染しやすい年代についてまとめます。
参照元:国立感染症研究所「A型肝炎とは」
・男性は45〜49歳がピーク
・女性は50〜54歳がピーク
・男女ともに0〜9歳の患者数は少なめ
・男女ともに85歳以降はほぼ感染者なし
・男女ともに10歳以降は徐々に患者数が増えている
・男女ともに50歳以降は徐々に患者数が減っている
高齢者の患者数が少ない理由として、一度でもA型肝炎に罹患した人には終生免疫が備わるためと考えられます。
A型肝炎はなぜ感染するのか?
A型肝炎が感染する原因は大きく4つです。
・食中毒
・海外旅行や出張
・性行為
・その他の感染経路
その他の感染経路としては、「汚染された水を飲む」「ウィルスが付着した手で口を触れる」などの経口感染が挙げられます。それぞれの項目について、具体的に見ていきましょう。
食中毒
A型肝炎は食中毒が原因で発症するケースが多いです。厚生労働省では、食中毒によるA型肝炎ウィルスの感染を防ぐために、以下の注意喚起を行っています。
・加熱調理用の二枚貝は中心部まで十分に加熱する
・加熱調理用の二枚貝を触った後の手洗いや消毒を行う
・加熱調理用の二枚貝を触った後は器具や食器を使い分ける
調理従事者が上記の衛生管理を徹底することで、他の食材への汚染リスクが減ります。ただし、提供される料理が100%安全とは限りません。食事前は手洗いを徹底することはもちろん、できる限り加熱調理が施された料理を選ぶこともポイントです。
海外旅行や出張
A型肝炎は海外旅行や出張の際に発症しやすい感染症です。特に以下の地域では、感染リスクが高いと言われています。
・アジア
・アフリカ
・中南米
上記のエリアへ渡航する場合、事前にA型肝炎ワクチンの予防接種を受けておくと安心です。ちなみに、A型肝炎ワクチンは安全性が高いとされており、世界保健機関(WHO)でも接種が推奨されています。
性行為
A型肝炎は性行為によっても発症するリスクが高いです。一般社団法人日本ワクチン産業協会の報告によると、性行為によるA型肝炎の発症件数は下表のとおり、2018年のタイミングで急激に伸びています。
2000年〜2017年 | 平均266例(範囲:115~502例) |
2018年 | 926例 |
2019年 | 425例 |
2020年 | 120例 |
2021年 | 69例 |
参考:一般社団法人 日本ワクチン産業協会 2022 予防接種に関するQ&A集
最も感染事例が多い2018年について、38%は経口感染、53%は性的接触が原因です。性別の比率は男性90%、女性10%となっており、圧倒的に男性の感染者が多い結果となっています。
2019年以降、徐々に感染者数が減少しているのは、主にA型肝炎ワクチンの普及によるものと考察されているようです。
その他の感染経路
食中毒や海外旅行、性行為以外の感染経路としては、以下のような経口感染が挙げられます。
・汚染された水を飲む
・ウィルスが付着した手で口を触れる
食事だけではなく、特に旅行中の飲水にも気を付けましょう。また、手のひらから感染する可能性もあるため、日頃口元に当てる癖がある場合は改善しておくと安心です。
A型肝炎の主な症状は?
A型肝炎の主な症状について、以下のテーマに沿って解説を進めます。
・潜伏期間
・主な症状
・発症後から治るまでの期間
主な症状に関しては、6歳未満の子どもと小学生以上〜成人の2パターンに分けて記載します。年齢別の特徴や注意事項も含めてご覧ください。
潜伏期間
A型肝炎の潜伏期間は15〜50日程度と言われています。
早ければ2週間ほどで症状が出てきますが、仮に50日、つまり2ヶ月弱ほど潜伏期間があった場合、何が原因でA型肝炎になったかが特定できないケースも多いでしょう。
主な症状
A型肝炎の主な症状は以下のとおりです。
・発熱
・頭痛
・嘔吐
・吐き気
・食思不振
・黄疸
・悪寒
・褐色尿
・白色便
黄疸(おうだん)とは、血液中のビリルビンという成分が上昇することで、眼球や皮膚が黄色くなる症状のことです。
上記の症状のうち、1つだけが現れるわけではありません。当てはまる症状がいくつもあった場合、A型肝炎の疑いを強く持つと良いでしょう。
上記のほか、A型肝炎患者の50〜80%に肝腫大が認められ、40〜50%に肝臓の圧痛が見られます。肝機能の状態を示す肝逸脱酵素(AST・ALT)の値が適正値を超える点も、A型肝炎の特徴です。
6歳未満の子ども
6歳未満の子どもは、A型肝炎にかかったとしても、症状はあまりひどくならない傾向があります。症状が出る場合でも、眼球や皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)が見られる割合は低いのが特徴です。
ちなみに、1999年〜2003年にかけて実施された「国立感染症研究所(NIID)の感染症発生動向調査報告」によると、そもそも未就学児の患者数自体が少ないです。
つまり、6歳未満の子どもにとってのA型肝炎は、ほとんど脅威ではないといえるでしょう。
小学生以上~成人
年齢が上がるにつれ、A型肝炎の症状は出やすくなります。青年期以降の場合、眼球や皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)が見られる確率は70%以上です。
参考までに、1999年〜2003年にかけて実施された「国立感染症研究所(NIID)の感染症発生動向調査報告」によると、小学生以上〜成人にかけてA型肝炎の患者数も一気に増えます。
発症後から治るまでの期間
A型肝炎の発症後から治るまでの期間は2〜3ヶ月程度と言われています。「一般社団法人 日本感染症学会」が公表しているデータによると、A型肝炎の治療期間と割合は以下のとおりです。
・2〜3ヶ月:85%
・半年以内:ほぼ100%
A型肝炎はB型肝炎やC型肝炎などとは異なり、慢性化はしない点も大きな特徴と言えます。ちなみに、A型肝炎は一度罹患すると、終生免疫がつくため、再発の可能性は低いでしょう。
感染を疑ったときに取る行動
A型肝炎の感染を疑ったときに取るべき行動について解説します。
A型肝炎の症状は自然に緩和されますが、念のために病院で診察を受けておくのがおすすめです。特に高齢者や肝障害がある人は命に関わるケースがあるため、即病院へ向かわなければなりません。
それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。
他者と距離を空ける
A型肝炎への感染が疑われる場合、他者と距離を空けることを意識してください。第三者に感染させてしまうリスクがあるためです。ただ、他者と一切接触を持たない生活を実現しにくい人もいるでしょう。そこで、第三者にウィルスを感染させないために、おさえておきたいポイントを3つシェアします。
・感染者は数ヶ月ほどウイルス排泄が続く
・最も感染性が強いのは発症2週間前から発症後1週間
・A型肝炎ウィルスは塩素消毒や食材の十分な加熱(85℃を1分間以上)で失活する
例えば、生活を共にするパートナーに手料理をふるまう場合、十分に加熱した食材のみを提供することで、感染リスクは激減するでしょう。
ただし、発症2週間前から発症後1週間は最も感染しやすいため、可能な限り他者との接触を避けることをおすすめします。
症状がひどいなら病院へ
A型肝炎は病院での治療も可能です。症状がひどいなら、診察を受けることをおすすめします。軽度な発熱や頭痛ならまだしも、以下のような症状が見られる場合は迷わず、病院に足を運んでください。
・嘔吐
・黄疸
・悪寒
・褐色尿
・白色便
A型肝炎は感染力が非常に強いです。パートナーと一緒に住んでいる場合は、一緒に診察を受けておくと安心でしょう。
高齢者や肝障害がある人は即時病院へ
高齢者や肝機能に障害がある人は即、病院へ行きましょう。A型肝炎に罹患した際のリスクが大きく、最悪の場合は死に至るケースもあるためです。高齢者や肝障害がある人の治療について、ポイントを3つお伝えします。
・肝障害が強い人は入院して治療を受ける
・肝障害を誘発しうる薬剤の投与を避ける
・急性肝炎の治療経験が豊富な施設で治療を受けるのが望ましい
より安心して治療を受けられる施設としては、全国に点在する肝疾患診療連携拠点病院や、日本肝臓学会認定の施設などが挙げられます。
自然に治るのを待つのはあり?
A型肝炎は症状が悪化する可能性があるため、自然に治るのを待つのはあまりおすすめできません。ただ、基本的にはA型肝炎の症状は自然と緩和されていきます。参考までに、「一般社団法人 日本感染症学会」が公表しているA型肝炎に関するデータをご覧ください。
・発症から2〜3週間で自覚症状は改善に向かう
・発症から2〜3ヶ月以内に85%の症例が治る
・発症から半年以内にほぼ全ての症例が治る
上記のほか、A型肝炎は慢性化せず、一度でも罹患すると終生免疫が得られる点も安心できるポイントです。
診断・検査方法
A型肝炎を発症したと感じたときの診断や検査方法について解説します。
事前に治療費用や検査内容、治療方法などを把握しておけば、安心して治療に臨むことができるでしょう。早速、それぞれの項目について見ていきます。
受診するのは内科・消化器科
A型肝炎を発症した場合、受診するのは内科・消化器科です。明らかな自覚症状がある場合、できるだけ早めに病院に足を運ぶことをおすすめします。
A型肝炎は非常に感染力が強いため、パートナーと共に暮らしている人は、一緒に検査を受けておきましょう。
おおよその治療費用
A型肝炎の診察や検査にかかる費用の目安は以下のとおりです。
・診察料:3,000円〜5,000円
・検査代:3,500円〜
・薬代:別途必要
上記は保険が適応されない場合の目安金額です。保険適用の場合は3割負担となるため、一気に負担が軽減されます。仮に診察料と検査代、薬代をすべて合わせて10,000円なら、3,000円程度の出費で済む計算です。
保険が適用されるか否かは病院によって異なるため、事前に電話で確認してみると良いでしょう。
検査される内容
A型肝炎の検査では、血液検査(IgM-HA抗体検査)が実施されます。IgM-HA抗体は、A型肝炎に感染している患者の血液中に出現するタンパク質の一種です。感染からおよそ1ヶ月でピークを迎え、3ヶ月〜6ヶ月ほどで陰性化するため、感染機会から1〜3ヶ月以内のみ、血液検査ができます。
・A型肝炎の検査は血液検査(IgM-HA抗体検査)
・IgM-HA抗体はA型肝炎患者の血液中に出現するタンパク質
・A型肝炎の感染機会から1〜3ヶ月以内のみ、血液検査が可能
検査の結果は2〜3日ほどで判明します。A型肝炎であると診断された場合、医師の指導にしたがって、適切な治療を行いましょう。
治療方法
A型肝炎の治療は、安静にして経過を観察するのが基本です。治療薬は特にありません。血液検査の数値が異常に高いケースや、黄疸(おうだん)の症状がある場合、入院して経過を観察します。
治療の大まかな流れは以下のとおりです。
①A型肝炎に感染していると診断される
②1ヶ月ほど入院して経過を観察
③肝機能が正常化する
目安として、A型肝炎は発症から2〜3ヶ月で完治することがほとんどです。肝機能が正常化すれば退院できますが、その後2〜3ヶ月は便にウィルスが排出される可能性があるため注意しましょう。
予防するためにできること
A型肝炎を予防するために有効な手段について解説します。
A型肝炎は食中毒や海外旅行、性行為などが感染経路になるケースが多いです。ワクチンを接種しておけば感染のリスクは激減しますが、食事面や他者との接触に関しても注意することをおすすめします。
ワクチン接種
A型肝炎の予防にはワクチン接種が有効です。特に以下のいずれかに該当する人は、ワクチンを打っておいたほうが良いでしょう。
・すべての小児
・同性と性行為を営む男性
・安定した住居を持たない人
・慢性肝疾患や出血性疾患の患者
・A型肝炎が流行中の地域に旅行する人
・A型肝炎ウイルスの検査や研究に関わるスタッフ
A型肝炎ウィルスのワクチンの接種回数や頻度、金額の目安は下表のとおりです。
接種回数 | 3回 |
接種頻度 | ①初回②初回から1ヶ月後③初回から6ヶ月後 |
金額の目安 | 1回10,000円前後 |
ワクチンは3回を半年間かけて接種するため、海外旅行を控えている人は早めに打っておくことをおすすめします。なお、ワクチン接種による効果はおよそ5年間です。
食事の際に衛生管理を徹底
食事の際に衛生管理を徹底することで、A型肝炎への感染リスクを大幅に低減できます。基本的には、以下のポイントを守ることで感染を限りなく防げるでしょう。
・食材を取り扱う前に石鹸と流水でしっかり手を洗う
・食材を十分に加熱(85℃で1分以上)する
感染の可能性がある地域での生食は控える
A型肝炎が流行している地域や、感染の可能性が高いエリアでの生食は控えましょう。特に、以下の地域に渡航する際は注意が必要です。
・アジア
・アフリカ
・中南米
上記エリアに滞在する場合、未加熱の野菜や魚介類、寿司、生水などを避けるのはもちろん、屋台での飲食にも気をつけてください。
感染源への直接接触を減らす
A型肝炎の感染源への直接接触を減らすことも重要です。具体的には、以下のような行為に細心の注意を払いましょう。
・ウィルスが付着した手で口に触れる
・性行為(糞口感染)
公共トイレの便座を使用したり、海外渡航先で生水に触れたりした後は、ウィルスがたっぷり付着している可能性が高いです。こまめに消毒することはもちろん、顔や口を触らないように心がけてください。
まとめ
A型肝炎について様々な切り口から解説しました。
A型肝炎は発熱や頭痛、黄疸などの症状を伴う病気です。感染源は、食中毒や海外旅行、性行為などが考えられます。
潜伏期間は15〜50日程度かかり、発症してから治療までの期間は2〜3ヶ月程度と長期にわたる可能性があります。発症した場合は内科・消化器科でまずは感染しているかを調べましょう。
特に高齢者や肝障害がある人は最悪、死に至る可能性もゼロではないため、すぐにでも病院に足を運ぶべきです。
感染しないためには、ワクチン接種が非常に有効です。3回に分けて接種しなければなりませんが、接種すれば5年間は感染を防ぐことができます。
ぜひ本記事の内容を参考にしていただき、A型肝炎に対して適切な対応を行ってください。
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