梅毒は2011年以降、国内感染者数が増えており、2022年には10,000人を超えたと報告されています。主な感染経路は性行為ですが、稀に性行為以外でも感染してしまうケースがあります。妊娠中の女性が梅毒に感染すると、母子感染が起こる可能性もあるため、注意するとともに梅毒に関して理解を深めておきましょう。
記事の前半で「梅毒の概要・感染経路」について、後半で「症状・治療方法・予防方法」について解説しているので、ぜひ参考にしてください。
梅毒は細菌性の性感染症
梅毒は細菌性の性感染症(いわゆる性病)です。「梅毒トレポネーマ」という細菌が原因で発症し、赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることから梅毒という名前がつけられました。梅毒は主に性行為や性行為に類似する行為(オーラルセックス)などで感染します。
感染すると、性器や口の中などにしこりができたり、痒み・痛みがない発信が手のひら、徐々に身体中にまで広がったりすることがあります。しこりや発疹が消失することもありますが、ほとんどの場合、梅毒トレポネーマは消滅しないため、必ず医療機関での治療が必要です。
自然治癒に任せて放置していると、数年〜数十年の間に脳や心臓、血管などの臓器が病変し、死に至ることもあります。
病原体は「梅毒トレポネーマ」
梅毒の病原体は「梅毒トレポネーマ」という細菌です。梅毒トレポネーマの唯一の宿主は「人間」です。試験管などでの培養はむずかしく、梅毒トレポネーマの仕組みなどはほとんど解明されていません。熱や乾燥に弱く、低酸素状態でしか長く生きられないことが特徴とされており、人間の体内以外での生存は困難です。
そのため、日常生活で使用する物などから感染することはほぼありません。感染経路のほとんどは粘膜や皮膚からであり、限定されています。
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梅毒の感染経路
梅毒の感染経路は、性行為または性行為に類似する行為(オーラルセックスなど)によるものがほとんどです。梅毒トレポネーマ(細菌)が、膣や口などの粘膜や皮膚から体内へ侵入し、数時間でリンパ節へ到達。そこから血液に乗って全身に広がっていくのが一般的です。
稀に、感染者の「皮膚潰瘍」に触れてしまうことで梅毒に感染するケースもあります。しかし、梅毒トレポネーマは人の体外で長時間生きることができないため、梅毒感染者が触れたドアノブやトイレを使っても感染するケースはほとんどありません。
梅毒の感染者数
出典:厚生労働省「梅毒」
梅毒の感染者数についての報告がはじまったのは1948年です。1948年以降、感染者数でもっとも多かった年は1967年の約11,000人でした。1967年以降、梅毒感染者数はずっと減少傾向にありましたが、2011年より感染者が増え始めました。
2022年10月下旬の時点で、梅毒感染者数が10,000人を超える報告があり、特に「20〜29歳女性」の感染者数がもっとも多く、注意が必要な状況となっています。
感染経路に心当たりがない場合
梅毒の感染者の中には、性行為などの心当たりがなく、感染経路がわからないケースもあります。梅毒トレポネーマは熱や乾燥に弱く、低酸素状態でしか生きられない細菌であるため、サウナや温泉、プール、トイレなどでの感染は考えにくいでしょう。
また、食器やタオルなどを感染者と共有している場合でも、梅毒トレポネーマは体外に出ると数時間で死滅するため、触った物を介して他者へ感染することはほとんどありません。しかし、性行為など感染経路に心当たりがなく日常生活でも感染する可能性が低い場合、どのようにして感染してしまうのでしょうか。
考えられる感染経路は、以下の3つです。
- 口や咽喉からの感染
- 傷口からの感染
- 母子感染
以下で1つずつ解説します。
口や咽喉からの感染
梅毒への感染経路は口やのどの粘膜からも感染する恐れがあります。口やのどから感染する原因は、主にキスやオーラルセックスなどです。しかし、くしゃみや咳などの飛沫感染の可能性もあります。
くしゃみや咳で出る唾液の中に梅毒トレポネーマが含まれていることが多く、その飛沫を吸い込むことで感染してしまいます。マスクの着用など、咳エチケットを守ることで飛沫感染からの感染は防ぐことができます。
傷口からの感染
稀に、手指などに傷口がある状態で、多量の梅毒トレポネーマに汚染された物品に接触すると、感染してしまう恐れがあります。通常、梅毒トレポネーマは熱や乾燥に弱く、低酸素状態でしか長時間は生きられない細菌です。
しかし、傷口がある状態だと感染者の粘膜や皮膚に触れていなくても、多量の梅毒トレポネーマに汚染されている場合は、感染してしまう可能性があるので注意が必要です。
母子感染
妊娠中の女性が梅毒に感染した場合、母子感染する可能性があります。梅毒トレポネーマが胎盤を通して胎児へ侵入することで感染します。母子感染した場合、先天性梅毒や流産、死産などが起こる可能性があります。
梅毒は治療すれば治る病気ですが、母子感染の場合は治療しない場合は約40%、治療している場合は約14%の確率で先天性梅毒となってしまいます。そのため、妊娠する前に梅毒の検査を行い、梅毒でないことを確認することが望ましいでしょう。
梅毒の症状
梅毒の症状は、経過時間と症状によって大きく分けて3つに分類できます。
- 早期顕症梅毒
- 第1期(感染後から約3週間~3か月)
- 第2期(感染後から約3か月以上経過)
- 晩期顕症梅毒
- 第3期(感染後から約3年~10年以上経過)
- 第4期(感染後から約10年以上経過)
- 無症候性梅毒
無症候性梅毒(症状はないが梅毒に感染している状態)もありますが、現代では第3期梅毒まで経過する前に梅毒が発見されるため、ほとんど見られません。そのため、ここでは第1〜4期までの症状について解説します。
第1期梅毒(感染後から約3週間~3か月)
第1期梅毒は、感染後から約3週間〜3ヶ月の期間を指します。主な症状としては、感染した部位(陰部や口の中など)に痛みのないしこりができることです。そのしこりが徐々に、びらん・潰瘍などに進行します。股関節のつけ根あたりにあるリンパ節が腫れることもありますが、痛みがないのが特徴です。
治療をしなくても症状が消失する場合がありますが、体内に梅毒トレポネーマは残存している可能性があります。症状がないからといって性行為を行うと、相手に感染させてしまう恐れがあります。
第2期梅毒(感染後から約3か月以上経過)
第2期梅毒は、感染後から約3ヶ月以上経過した場合を指します。第1期梅毒のしこりやびらん、潰瘍などを放置することで、梅毒トレポネーマが血流に乗って全身へ行き渡ります。全身へ梅毒トレポネーマが行き渡ると、体幹・手のひら・足の裏に赤い斑点が見られるようになります。
陰部や肛門周囲には平らなしこり、口の中には口内炎に似た発疹が発症することもあります。第2期でも症状が消失する場合がありますが、体内に梅毒トレポネーマは残存しているため、治療しなければ梅毒が進行する恐れがあります。
第3期梅毒(感染後から約3年~10年以上経過)
第3期梅毒は、感染後から約3年〜10年以上経過した期間を指します。第3期梅毒の症状も特徴的で、皮膚や筋肉、皮膚・粘膜・骨にゴムに似た腫瘍(ゴム腫)が発生します。ゴム腫が鼻の骨にできると、鼻が欠けてしまう恐れもあります。
しかし、現在は第1期〜第2期の段階で診断・治療されることが多いため、第3期への進行はほとんどありません。
第4期梅毒(感染後から約10年以上経過)
第4期梅毒は、感染後から10年以上たった場合を指します。この時期の梅毒は、臓器にも腫瘍ができている状態がほとんどです。神経梅毒も発生し、髄膜炎や脳梗塞などを発症する恐れがあります。
また、以下の部位にも病変が起こる可能性があります。
- 脳(麻痺性痴呆)
- 血管(大動脈炎・大動脈瘤)
- 脊髄(脊髄ろう)
これらを発症することで、死亡する可能性も高くなります。しかし、現在は第1期〜第2期の段階で診断・治療されるケースがほとんどです。そのため、第3期・第4期への進行はほぼありません。
梅毒の治療
梅毒の治療では「ペニシリン系などの抗生物質」が有効とされています。治療方法には内服治療や筋肉注射がありますが、「ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤(ペニシリン系の筋肉注射)」が世界的な標準治療薬として使われています。
ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤は以下の梅毒が対象です。
- 早期顕症梅毒(第1期・第2期)
- 後期顕症梅毒(第3期・第4期)
- 早期先天梅毒
しかし、ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤は、神経梅毒の治療ができません。神経梅毒の場合は、「ベンジルペニシリンカリウム(抗菌薬)」の点滴によって治療が行われます。梅毒は、症状が消失することがありますが時間をかけて進行する病気であり、自然治癒しません。
そのため、内服期間や治療期間を自己判断で辞めないことがもっとも重要です。また、医師の許可が下りるまでは、性行為や性行為に類似する行為は控えるようにしましょう。
梅毒の予防策
梅毒の予防策としては、「梅毒による病変部位を粘膜や皮膚で触れないこと」がもっとも重要です。ただし、梅毒は症状が消失している場合もあるため、梅毒に気づかない可能性もあります。そのため、性行為を行う場合は、コンドームを確実に着用しましょう。
しかし、外陰部などコンドームでは覆えない部分から感染してしまう恐れがあるので、コンドームの着用で完全な予防はできません。また、不特定多数との性行為は感染拡大に繋がる可能性があるため、控えるようにしましょう。万が一、粘膜や皮膚に異常がある場合は、性行為などは控えて早めに医師へ相談しましょう。
まとめ
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌が原因で発症する病気です。性器や口の中などにしこりができたり、痒み・痛みがない発信が手のひら、徐々に身体中にまで広がったりすることがあり、進行するにつれてゴム種や神経梅毒、または脳・血管・脊髄の病変が進行し、重症化する恐れがあります。
しかし、梅毒は内服や筋肉注射によって治療が可能な病気です。ただし、症状がなくなっても体内の梅毒トレポネーマは消滅していない可能性があるので、内服や治療期間を自己判断で辞めるのは危険であると理解しておきましょう。
もし、梅毒のような症状でお悩みの場合は、早めに医療機関へ受診し、治療開始することをおすすめします。
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