【医師監修】ちっとも改善しないアトピーの原因は疥癬という感染症かも?

アトピーの治療を続けても全然よくならないどころか、かえってひどくなっている!アトピーの症状が一向におさまらない!かゆくて本当に眠れない!

こんな時、本当にしんどいですよね。アトピーと似ている病気で疥癬という病気があります。皮膚が痒くなる病気ですが、これらは全く違う病気です。

もし身近で疥癬に感染している方がいる場合や、家族やパートナーが高齢者施設や病院に勤務されている場合は、疥癬の可能性があります。本記事では、アトピーと疥癬の見分け方や、疥癬の治療法についてご紹介します。

また、疥癬は感染症ですので家族やパートナーの方にも周知する必要があります。治療に要する期間や、うつさないための対策なども併せてご紹介します。

アトピーと疥癬の違い

まずはアトピーと疥癬の違いについて簡単にご説明します。

アトピーとは

アトピーとはアトピー性皮膚炎といわれる「良くなったり悪くなったりを繰り返すかゆみのある湿疹」を伴う皮膚疾患です。湿疹は身体の左右対称性に出現します。

アトピーは加齢とともに少なくなりますが、20代で10.2%、30代で8.3%、40代で4.1%、50-60代で2.5%の方が罹っており、頻度の高い病気です。厚生労働省の調査によると2017年の患者数は約51万人です。

アトピー性皮膚炎の炎症に対しては速やかに、かつ確実に鎮静させることが重要であり、そのためにステロイド外用薬とタクロリムス軟膏をいかに選択し、組み合わせるかが治療の基本となってきます。

その際、視診と触診を参考に炎症の部位を適切に把握し、これらの薬剤を十分な範囲に外用します。アトピー性皮膚炎は適切な治療により皮疹が安定した状態が維持されれば寛解が期待される疾患です。

4週間程度、塗り薬を使用しても皮疹の改善がみられない場合、あるいは皮疹がひどい場合に関しては皮膚科専門医を受診しましょう

疥癬(かいせん)とは

一方、疥癬でもアトピーに似た赤いブツブツとした皮疹が出現し、かゆみを伴います。

一見アトピーにも見える症状ですが、原因は「皮膚に棲みついた小さなダニ」です。このダニはヒゼンダニといい、成虫でも体長0.4mmと目では見えません。疥癬を診断するためにはヒゼンダニの成虫や卵を見つける必要があります。

しかし疥癬はヒゼンダニを検出するのが難しい病気です。皮膚科専門医でもヒゼンダニを見つけることは難しく、検出率は60%前後です。疥癬だと断定できないことがあり、アトピー性皮膚炎と診断に迷うこともあります。疥癬のかゆみの原因は、ヒゼンダニ自体やヒゼンダニの死骸や糞などに対するアレルギー反応です。

アトピーと比較すると、疥癬の年間の感染患者数は8万人〜15万人と圧倒的に少ないです。疥癬に対しての治療としてはイベルメクチンという飲み薬やフェノトリン、イオウ剤、クロタミトンクリーム、安息香酸ベンジルという塗り薬があります。またかゆみ止めとして抗ヒスタミン薬の飲み薬を併用します。

疥癬とアトピーの見分け方

疥癬にはいくつか特徴的な症状がありますが、特に医師ではなくても疥癬に気づくことのできるポイントをお伝えします。

夜にかゆみが増す

疥癬は夜間にかゆみが強くなります。この理由としては疥癬の原因であるヒゼンダニが夜間に活発に行動するためです。

疥癬トンネル

疥癬では疥癬トンネルという特徴的な皮膚症状があらわれます。疥癬の原因であるヒゼンダニのメスは、オスと交尾したのち皮膚の表面に対して巣穴を掘り、そこに卵を産みつけます。その巣穴を掘った際に、爪で引っ掻いたような5 mm 〜 10 mm程度の線が見られます。(この線はまっすぐなこともあれば、蛇行していることもあります。)

疥癬トンネルは指の関節の曲げる側、手のひら、指の間、指の側面などにみられることが多いとされています。この疥癬トンネルを発見することができれば、この付近にヒゼンダニや卵などが存在している可能性が高いと考えられます。

ステロイド外用薬で炎症が悪化する

ステロイド外用薬で炎症が悪化する場合は疥癬を疑う必要があります。ステロイド外用薬は免疫を抑制することによって皮膚の炎症を抑えます。アトピー性皮膚炎やそのほかの病気ではステロイドを使って治療を行っています。しかし、疥癬であった場合は、ステロイド外用薬によって免疫が低下し、逆に疥癬が悪化する可能性があります

疥癬にもかかわらずステロイド外用薬を使い続けた場合には、免疫力が低い状態になりヒゼンダニが大量に繁殖してしまい「角化型疥癬(かくかがたかいせん)」と呼ばれる非常に感染力の強い状態に移行してしまう可能性もあります。ステロイドを使用している時やいつものアトピーと違うと感じた場合には皮膚科を受診してください。

疥癬かな?と思ったら

ここまでの記事をお読みになり、もしあなたが疥癬かな?と思ったら迅速に皮膚科を受診することをお勧めします。疥癬は治療に薬剤が必要となるだけではなく、放置しておくと他人に感染してしまうからです。ご家族やパートナーにうつさないためにも、早めの治療に加えて、疥癬の感染経路や感染対策を知っておくことも大切です。

疥癬の感染経路

疥癬の原因となるヒゼンダニにとっては、皮膚表面が最も過ごしやすい温度です。人の皮膚から離れると動けなく、2〜3時間後には死んでしまいます。そのため、疥癬にかかる経路はある程度特定できます

感染者との皮膚同士の接触

介護施設などで高齢者をケアする際に皮膚同士が接触することで感染します。本記事ではあまり触れませんでしたが、通常の疥癬では集団感染はあまり起こりません。

免疫が弱った高齢者の集団や通常の疥癬が極めて悪化した角化型疥癬の患者さんがいらっしゃった場合に、集団感染の可能性が高くなります。

他にもパートナーとの性交渉や、添い寝、こたつでの接触などが感染経路として挙げられます。

疥癬の感染対策

疥癬の感染対策ですが、あまり神経質になりすぎる必要はありません。ヒゼンダニは人の皮膚以外では活発に行動できないため、通常の疥癬患者と数時間並んで座った程度では感染する可能性はほとんどありません

角化型疥癬の場合は、高い感染力のため隔離が必要となりますが、通常の疥癬はあまり感染力は強くありません。そのため、添い寝や一緒の布団で寝ないようにすること、お風呂だけは最後にしてください。疥癬だからといって神経をすり減らす方が、かえって健康にはよくありません。

ただ、お子さんが小さくまだ離れて寝られない場合は、皮膚科で相談してください。もしまだ症状は出ていないけど、パートナーや家族も疥癬にかかってしまったかもしれないと思った場合には、予防治療も可能です。

予防治療とは、疥癬にかかってしまった可能性を考えて事前に治療を行うことです。しかし原則は確定診断がついた患者さんに薬を投与することになっており、安易な予防投与や頻回使用は避けられるべきとされています。

もしパートナーやご家族が感染していた場合、あなたの治療が終わったとしても再度パートナーや家族から感染してしまい、治療が長引く可能性があります。こちらも状況を相談のうえ、皮膚科にてご相談ください。

疥癬の治療法

疥癬は、感染の原因となるヒゼンダニを駆除しながら治療します。主な治療法は飲み薬と塗り薬です。飲み薬として日本で使われているのは、イベルメクチンです。これは寄生虫を駆除する薬です。

一方、塗り薬としてよく用いられているのがフェノトリンです。大人は首から下の全身に塗りますが、幼児や高齢者は頭も含めた全身に塗ることがあります。なお、塗り薬は他にも何種類かありますので、皮膚科医の指示に従ってください。

なお、塗り薬はヒゼンダニの成虫には効きますが、卵には効果がありません。そのため、薬を塗ってから卵が孵化する約1週間後に同様に塗る必要があります。

まとめ

  • アトピー性皮膚炎にはステロイド外用薬を用いますが、疥癬ではヒゼンダニの繁殖を促してしまい、悪化する可能性があります。アトピーの症状が一向に改善されない場合は、疥癬を疑ってください
  • 疥癬の感染力はあまり強くないため、普段通りに生活してもらって構いません。しかし、角化型疥癬の場合は即座に隔離が必要となります。
  • 疥癬の治療には、飲み薬と塗り薬の併用が一般的です。皮膚科医の指示に従って適切に服用してください。

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