ピルは避妊効果が期待でき、生理日のコントロールや生理痛の改善もできるホルモン剤です。
一方で、それ以外にどのような効果があるか知らない方や、副作用や注意点などデメリットについても詳しく理解しておきたいという方も多いでしょう。
ここでは低用量ピルのメリットとデメリットを中心に説明し、実際の処方までのことやピルを服用できない場合についても説明します。
低用量ピルとは
低用量ピルとは、女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)を主成分としたホルモン剤のことです。
毎日1錠服用することにより生理周期やPMSの改善、避妊効果などが得られます。
ピルは1960年からあるものですが、当時はホルモンが高用量で含まれていることから副作用が多く出ていました。1999年からは日本でもホルモン量が少なくされた低用量ピルが販売されています。
低用量ピルを服用するメリット
では具体的に、低用量ピルにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは避妊効果、生理日のコントロール、月経に関する不調の改善、肌荒れ改善、子宮や大腸疾患のリスク低減について説明します。
避妊効果
低用量ピルは、卵子の成長を止めて排卵を抑制することで避妊効果を発揮します。
排卵がされないと、精子が侵入してきても卵子と出会わないため、受精することがなくなります。
また、子宮頸管の粘膜を変性させて精子を侵入させにくくすることや、子宮内膜を厚くさせないことで着床を阻害することも、低用量ピルの避妊効果によるものです。
生理日のコントロール
低用量ピルを飲むと生理が起こる期間が一定になります。
ピルは21日間にわたってホルモンが含まれた実薬を飲み、残りの7日間は何も飲まないか日数を数えやすいように偽薬を服用します。
この実薬を飲まない7日間は休薬期間と呼ばれており、このタイミングで生理がくるようになります。
ピルを服用し始める曜日を生理がスタートした次の日曜日にする(Sundayスタートと言います)と、月経が週末に起こらないため、お休みの日の日程が組みやすくなります。
また、中用量ピルは生理日の移動のために使われることもあるため、ピルを使うことで生理日のコントロールが可能といえます。
月経に関連する不調の改善
低用量ピルには生理痛や頭痛など月経困難症による症状や、月経前症候群(PMS)を改善する作用があります。
生理痛の原因となっているのはプロスタグランジンというホルモンです。本来は止血のために働くホルモンですが、腹痛・腰痛・吐き気の原因でもあります。低用量ピルを飲むとプロスタグランジンの働きを抑制することができるため、生理痛を抑えることができます。
また、ピルを服用すると子宮内膜が薄い状態で保たれるため、生理のときに剥がれ落ちる子宮内膜が少なく済み、生理痛が抑えられるという作用もあります。
PMSは排卵にともなって分泌された多量の黄体ホルモンが、精神の安定に必要なセロトニンの分泌量を低下させることで起こります。ピルを飲むと排卵が抑制されるため、結果的にPMSの症状を改善することができます。
肌荒れの改善
ピルのなかには肌荒れやニキビの改善が期待できるものがあります。
月経にともなう肌荒れやニキビは、月経によりホルモンバランスが乱れることが原因で起こります。
ピルを飲むと男性ホルモンの分泌も少なくなりホルモンバランスを整えることができるため、肌が荒れにくくニキビができにくい状態になるでしょう。
ピルの薬剤名としてはマーベロンやヤーズなどがニキビに良いと報告されています。
子宮や大腸疾患のリスク低減
ピルの服用により卵巣がん、子宮体がん、大腸がんのリスクが減るといわれています。
卵巣は排卵のたびに卵巣が傷つき修復されるのですが、修復の過程でエラーがあると卵巣がんのきっかけになります。ピルを飲むことにより排卵が抑えられるため、卵巣がんのリスクを減らすことが可能です。
子宮体がん(子宮内膜がん)は子宮内膜との関係が深いがんです。
エストロゲンの濃度が高いと過剰に子宮内膜が厚くなってしまい子宮体がんのリスクが上がるのですが、ピルに含まれるプロゲステロンがエストロゲンの働きを抑えるため子宮内膜の増加を防ぎ、子宮体がんのリスクを下げることにつながります。
大腸がんに関しては、過去の報告を解析するとピルの服用が大腸がんのリスクを下げるとわかっているものの、どのような仕組みなのか、また予防効果についてはまだ明らかになっていない状態です。
低用量ピルを服用するデメリット
ここまで低用量ピルの服用によるメリットについて説明しましたが、治療やお薬にはデメリットについても理解しておくことが大切です。
次は副作用、血栓症のリスク、乳がんや子宮頸がんのリスクが上がること、費用面についてご説明します。
副作用が出る場合がある
服用を始めた2ヶ月〜3ヶ月ほどはホルモンバランスが整わないため、下記のような副作用がみられる可能性があります。
- 吐き気
- 乳房の張り
- 頭痛
- 下腹部の痛み
- むくみ
- 不正出血
- 気分の変化や落ち込み
- 肌荒れ
もし数ヶ月経ってもおさまらない場合や症状が悪化する場合は、処方されたピルが体に合っていない可能性もあるため一度医師に相談しましょう。
血栓症のリスクがある
ピルの重大な副作用に血栓症リスクの増加があります。
理由としては、ピルに含まれる卵胞ホルモンには血を固まりやすくする作用があるためです。
割合としては、年間1万人のうち1〜5人が血栓症になると言われているところ、ピルを服用されている方では3〜9人がなると言われています。
特に喫煙者の方や肥満の方では血栓症になりやすいため、生活習慣においても注意が必要です。
乳がんや子宮頸がんのリスクが上がる
メリットの説明でリスクが低下するがんについて説明しましたが、乳がんと子宮頸がんについてはピルの服用によってリスクが増加する可能性があります。
乳がんの発症が増加したという報告はあるものの、リスクが増加するという報告と増加しなかったという報告の両方があります。
乳がんリスクの増加にはエストロゲンが関係していることから、エストロゲンの含有量が多いピルを処方しない方針のクリニックもあります。
子宮頸がんはピルを5年以上服用した場合に発症リスクが少し上がると言われています。
子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウィルス)に感染することで起こる病気です。コンドームで全てのHPV感染を防ぐことはできませんが、他の性感染症を防ぐためにも使用はしましょう。
お金がかかる
低用量ピルは1シート(1ヶ月分)で2,000円〜3,000円ほどかかります。
避妊目的であれば自由診療となり医療機関によって値段が異なるため、受診しようと思っているところがあれば確認しておくのがおすすめです。
そのため、初診料や検査費用を計算に含めない場合でも、1年間で24,000円〜36,000円は想定しておいたほうがよいでしょう。
もし月経困難症・月経前症候群・子宮内膜症のいずれかと診断された場合は低用量ピルでも保険が適用されるため、1ヶ月あたり1,600円〜2,500円と少し安価になります。
5年ほどの長期で妊娠を望まない方や毎日の服用を忘れそうな方であれば、避妊リングのほうが費用を抑えられる可能性がありますので、一度検討してみると良いかもしれません。
低用量ピルの処方の流れ
ピル処方までの流れは、問診票の記入、体重・血圧測定、必要な場合は検査、ピルの説明、処方・お支払い、となります。
まずは問診票を記入し、血圧と体重を測定します。
問診票ではピルの服用が問題ないかを判断するため、いくつかの質問に回答します。
体重測定は肥満の方はピル服用により血栓症のリスクが高いため、また、高血圧の方だと心筋梗塞や脳卒中のリスクもあるため血圧測定も大切な指標です。
検査の有無は医療機関の方針や個人の体の状況によります。血栓症(血管が詰まる病気)のリスクがある場合などはその場で検査を行なうことがあるでしょう。また、ピル服用開始後は、定期的ながん検診や血液検査をすすめられることがあります。
低用量ピルのなかには肌荒れの効果があるものや生理痛を改善するもの、むくみに配慮されたものなどがありますので、希望するものがあればこの時点で医師に相談しておくとよいでしょう。
低用量ピルを処方できないケース
多くの方はピルが処方可能となりますが、下記に該当する場合は処方できない可能性があります。
- 喫煙者の方
- 高血圧や高脂血症の方
- がんの可能性がある方
- 視界がキラキラした後に偏頭痛が起こる方
- BMIが30以上の肥満の方
- ピルとの併用で効果に影響がでるお薬や健康食品を摂っている方
- 肝機能が低下している方
いずれかに該当している場合は医師に相談をして、処方が可能かどうか確認しましょう。
低用量ピルについてよくある質問
ここでは低用量ピルに関してよくある質問に回答します。
ピルの1相性や3相性とは?
ピルに含まれるホルモン量の配合が異なります。
1相性(そうせい)は21日分の実薬全てに同じホルモンが同じ配合量で含まれているのに対し、3相性では21日分のうち3段階で配合比率が異なります。
飲む時間帯はいつがいい?
飲み忘れない時間帯であれば特に指定はありません。平日でも休日でも、一定の時間帯を選ぶようにしましょう。
飲み忘れた場合はどうなる?
1日分であれば気づいたときにすぐ服用します。この場合、1日に2錠飲むことになったとしても問題ありません。
2日以上の飲み忘れは生理が起こる可能性がありますので、医師に相談しましょう。一度服用をストップして生理が来たタイミングで再開するなどの対応が取られます。
まとめ
低用量ピルのメリットやデメリット、処方の流れなどについて解説しました。
おもなメリットは避妊効果、生理日のコントロールができること、月経困難症やPMSなど生理に関連する不調の改善、ピルの種類によっては肌荒れの改善、子宮がんや大腸がんのリスク低減などが挙げられます。
一方デメリットでは、副作用の可能性、重大な副作用である血栓症のリスク、乳がんや子宮頸がんなどの発症リスク増加、費用面についてふれました。
どのような治療法、お薬であっても、デメリットや注意点はつきものです。しっかりと理解したうえで服用を考えましょう。