「避妊に失敗した」「性犯罪を受けた」という理由で望まない妊娠してしまうことがあります。また、望んで妊娠を進めていたけれど、改めて出産は難しいと決断された方もいるのではないでしょうか。
このようなとき、やむを得ず人工中絶手術を選択することになります。人工中絶手術は、器具や人工的な流産で子宮の内容物(胎児や胎盤)を摘出する医療行為です。
この記事では、以下の内容を解説します。
- 人工中絶手術の種類
- 人工中絶手術の費用
- 人工中絶手術の流れ
「おろすのが怖くて不安だけど、いつまでに決める必要があるの?」とお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
人工中絶手術とは
人工中絶(人工妊娠中絶手術)とは、今の妊娠をやむなく中断するときにおこなう手術です。人工中絶できる条件は母体保護法で定められており、妊娠周期によって手術法やそのリスクも異なります。
母体保護法によって定められた、人工中絶が可能な条件は次のとおりです。
● 出産することにより経済的に支障を及ぼし、母体の健康が害される場合
● 強制的な性行為により妊娠した場合
そして、人工中絶をおこなえるのは、原則、母体保護法による指定医師のみです。ただし、緊急的な胎児の摘出(例:妊娠中の突然出血により母体と胎児の生命の危険がある場合)では、母体保護法指定医師ではない医師でも人工中絶が可能です。
妊娠22週目未満であれば人工中絶ができますが、12週目以降の人工中絶は母体への負担が大きいため、早めに選択をする方が多いです。
人工中絶手術できるのはいつまで?
人工中絶手術ができるのは、妊娠22週未満です。妊娠12週未満(11週6日まで)の妊娠初期の人工中絶手術では、掻爬(ソウハ)法と吸引法のどちらか、またはこの2つを併用していきます。妊娠6週〜9週の期間では、よりリスクが少なく手術が実施できると言われています。
妊娠初期の人工中絶手術は10〜15分程度で済み、体調に問題がなければ入院も不要です。体への負担だけでなく費用の負担も少なく済みます。
一方、妊娠初期より後の12週〜22週での人工中絶では、子宮口を広げた後に子宮収縮剤(陣痛促進剤)で陣痛を起こし流産する方法しかありません。そして、死産届の提出と胎児の埋葬許可証をもらう必要があるのです。母体への負担が大きいことはもちろん、入院費用や心理的な負担も大きいことでしょう。
人工中絶手術の種類
先ほどお伝えしたように、人工中絶手術には吸引法・掻爬(ソウハ)法・陣痛促進剤を使う方法の3種類があります。それぞれの特徴については以下の表をご覧ください。
吸引法 | 掻爬(ソウハ)法 | 陣痛促進剤 | |
---|---|---|---|
いつから | 妊娠初期 | 妊娠初期 | 妊娠12週 |
いつまで | 妊娠12週未満 | 妊娠12週未満 | 妊娠22週未満 |
特徴 | ・子宮の内容物を吸い出す方法 ・WHOで推奨されている ・掻爬法と併用することがある | ・子宮の内容物を掻き出す方法 ・日本では主流の方法だが出血リスクもある ・吸引法と併用することがある | ・人工的に流産させる方法 ・死亡届が必要 ・埋葬許可証をもらい、胎児を火葬・埋葬する必要あり |
吸引法の特徴
吸引法は、手動もしくは電動の機械を使用して子宮の内容物(胎児や胎盤)を吸い出す方法です。手動式吸引法(MVA)と電動式吸引法(EVA)は、どちらもWHOにより使用が推奨されている方法ですが、日本では実施している医療機関が限られています。
- 手動式吸引法(MVA):プラスチックの注射器のような器具を使用
- 電動式吸引法(EVA):先端が金属の電動吸引器を使用
吸引法は子宮内膜を傷つけるリスクが低いため、後で解説する掻爬(ソウハ)法よりも痛みや出血が少なく安全性も高いとされています。また、手動式吸引法(MVA)の器具は使い捨てのため、感染リスクが極めて低いことがメリットです。
デメリットとしては、採用している医療機関が少ないことが挙げられます。
掻爬(ソウハ)法の特徴
掻爬(ソウハ)法とは、子宮の内容物を物理的にかき出す方法です。子宮口を広げてから、スプーン状またはトング状の器具を使って子宮の内容物をかき出します。吸引法で十分に子宮内容物を取り出せなかったとき、掻爬法で取りきる場合もあります。
日本では掻爬法で人工中絶手術をする産婦人科が多く、対応してくれる医療機関を探すのが簡単なことがメリットです。
ただし、子宮を傷つけ出血が多くなるリスクや感染リスクも吸引法と比べて高くなることがデメリットです。痛みも掻爬法の方が強くなります。
陣痛促進剤による中絶の特徴
陣痛促進剤による中絶手術は、吸引法や掻爬法ができなくなる妊娠12週以降の妊娠中期におこないます。子宮口を広げる処置をしてから陣痛促進剤(子宮収縮剤)を使用して人工的に陣痛を起こし、流産させる方法です。
痛みや母体への負担は週ごとに増していくため、なるべく早めに処置をおこなう必要があります。通常は、2〜3日程度の入院も必要です。
また、役所への死亡届の提出や埋葬許可証の受け取りが必須です。手術後7日以内に手続きするようにしましょう。
人工中絶手術にかかる費用
人工中絶手術は保険適用のない自由診療となるため、かかる費用は医療機関ごとに異なります。
相場としては、以下の表を参考にしてください。
初期中絶 (吸引法・掻爬法) | 中期中絶 (陣痛促進剤) | |
初診料(問診・エコー検査など) | 1万円 | 1万円 |
術前検査(感染症検査など) | 1万円 | 1万円 |
手術(入院費・、埋葬費を含む) | 7〜10万円 | 40〜60万円 |
初期中絶の場合は吸引法を選択すると、中期中絶の場合は週数を追うごとに手術費用は高くなっていきます。ですが、診察のハードルを下げるため、初診料を無料としているところも多いです。
母体保護法に基づいた中絶手術の費用は、医療費控除の対象となることがあります。また、中期中絶のみ出産育児一時金を受け取れるため、健康保険へ加入している方は一度確認するのがおすすめです。
また、性犯罪による妊娠の場合、初診料・性感染症の検査費用・人工中絶手術の費用などが公費負担となる制度があります。お近くの警察署に相談してみましょう。
人工中絶手術の全体の流れ
人工中絶手術は基本的に、次のような流れでおこないます。
- 予約
- 初回診察
- 手術当日
- 術後診察
それぞれの流れについて、詳しく見ていきましょう。
初回診療の流れ
初回診療(初診)は、次のような流れで進んでいきます。初診では問診や母体の異常・中絶可能かどうかの検査をおこないます。
【中絶の初回診察時の流れ】
- ご予約
- ご来院
- 受付(問診票の記載)
- 診察(超音波検査・血液検査)
- 手術内容の説明(同意書のご提出)
- 手術日の予約
初診の際には、保険証などの身分証明書・脱衣しやすい服・夜用ナプキン3枚程度と生理用ショーツ(当日に手術をおこなう場合のみ)を持参しましょう。
パートナーがいる場合、初診時に付き添ってもらうようにしてください。中絶手術は基本的に本人とパートナーの同意が必要なためです。ただし、性犯罪などが理由でパートナーがいない場合は、本人の同意のみで中絶手術をおこなうこともできます。また、未成年の場合は保護者の同意書が必要です。
中絶手術当日の流れ
中絶手術当日の基本的な流れを解説します。ここでは、入院が不要な初期中絶の流れを見ていきましょう。初期中絶の場合、ご来院からお会計までの所要時間は3〜5時間程度です。
【中絶手術当日の流れ】
- ご来院
- 点滴・麻酔・・・基本的には局所麻酔をおこないます
- 手術(15分程度)・・・ルナドクターでは吸引法で手術をおこないます
- 手術後に2時間ほど経過観察・・・麻酔が覚めるまで休憩し診察をおこないます
- お会計
手術当日は、手術6時間前から絶食、3時間前から水分摂取はしないようにしましょう。また、手術後は入浴ができないため、事前に済ませておくことが必要です。
また、手術当日は脱衣しやすい服と夜用ナプキン・生理用ショーツが必要です。マニキュアやジェルネイルは手術の妨げとなるため除去しておいてください。
中絶手術後の診察
中絶手術後はしばらく安静に過ごしましょう。手術当日は入浴を控えシャワーのみにしてください。
手術後1〜4週間程度は少量の不正出血や下腹部の痛みが出ることがあります。
痛みが続いてつらい場合には早めに医療機関へ相談しましょう。
手術後1週間後と3週間後を目途に術後検診があり、子宮の状態・体調を内診・超音波検査で確認していきます。不安なことがあれば術後の診察で相談することをおすすめします。
人工中絶手術後の生理はいつから?
人工手術後は「生理はいつ来るの?」「また妊娠できるの?」など不安ですよね。
結論から言うと、中絶手術後は1〜2ヶ月後には生理が来ることが多く、妊娠も可能です。ただし注意点もあるため、ここで詳しく解説していきます。
中絶手術後に生理が来るのはいつ?
中絶手術後は1〜2ヶ月すると生理が来ることが多いです。しかし、妊娠中から通常のホルモンバランスに戻っていくのに時間がかかるため、なかなか生理がこないという方もいます。
生理が来るまでの期間は個人差があるため、生理が来ないときも不安にならないようにしましょう。生理が来ないことによるストレスで、さらに生理が遅れる場合もあります。
中絶手術から2ヶ月以上経っても生理が来ない場合には、産婦人科へ相談しましょう。不安なことがある場合、術後検診で早めに相談することもおすすめです。
中絶手術の直後から妊娠は可能
中絶手術後も妊娠は可能です。パートナーがいる場合、再び望まない妊娠をしないようしっかり話し合うことが必要となります。コンドームや低用量ピルなどの活用も検討しましょう。
また、中絶手術後は子宮内膜が傷ついていることもあり、感染リスクが高い状態です。最低でも手術後2週間は性行為を控えてください。
まとめ
避妊の失敗や強制的な性行為によって、望まない妊娠をしてしまった場合、人工中絶を検討する方もいるでしょう。人工中絶には吸引法や掻爬(ソウハ)法、陣痛促進剤の使用による3種類の方法が主流ですが、早い段階でおこなうことで体への負担だけでなく費用の負担も軽減されます。
「おろすかおろさないか」はとても深刻な悩みで、つい決断を先延ばしにしてしまうかと思います。ひとりで抱え込まず、パートナーや家族に相談してみましょう。身近に相談できる人がいない場合、中絶が決断できていない状態でも良いので早めに産婦人科へ受診することをおすすめします。