【ワ氏】梅毒検査のTPHA法とRPR法の違いについて解説

梅毒は性感染症の一種です。感染が疑われた際に、「ワ氏の検査って何するの?」、「梅毒に感染したかもしれないけど、どうすればいいの?」と悩んではいないでしょうか。

この記事では、梅毒の概要から検査方法についても解説しています。併せて梅毒の感染時期ごとによる症状や感染経路も紹介しており、梅毒に関する悩みや疑問が解決できる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

梅毒とは

梅毒は梅毒トレポネーマという細菌が、小さな傷や粘膜から感染し発症する性病です。病名は梅毒の症状である赤い皮疹が、陽梅(ヤマモモ)という果実に似ていることに由来しています。また、ワッセルマン氏が報告した梅毒の感染を検出する「ワッセルマン氏反応」より、梅毒は「ワ氏」とも呼ばれています。

梅毒トレポネーマは感染者の精液や膣分泌液、血液に含まれており、性行為による接触だけでなく、キスも感染経路となります。他にも、妊娠中の母子感染によって子どもに感染するケースもあり、早産や死産となることや、先天性の梅毒となるリスクもあるため注意が必要です。

梅毒は早期に適切な治療をすることで完治できる病気であり、医療機関への速やかな受診による早期発見が大切といえます。

梅毒の検査はどこで受診できるの?

梅毒の検査は医師の診察が必要であり、男性は泌尿器科、女性は産婦人科や婦人科にて検査ができます。性病専門である性感染症内科でも検査ができ、性感染症内科では性別問わず検査可能です。ただし、性感染症内科によっては男女で専門としている医療機関が分かれている場合もあるので、受診の際は事前に調べましょう。

梅毒の検査は、地域によって保健所などで匿名・無料で検査できるところがあります。検査キットもあり、検査に必要な検体を郵送するものや、検査したその場で確認できるものがあるため、自分に合った検査キットを選ぶのがおすすめです。

受診の際は医師が適切に診断するために、感染機会の時期や予防の状況(コンドーム着用の有無など)を医師に報告しましょう。そして感染の可能性がある周囲の人(パートナーなど)にも伝え、検査を受けてもらう必要があります。

パートナーにどうやって伝える?

梅毒の検査をするにあたり「パートナーに伝えづらい」、「浮気を疑われたくない」と考える人もいるでしょう。しかし性感染症に感染していた場合、あなたが治療してもパートナーが治療しなければ、また感染してしまいます。

梅毒を含む性感染症は無症状の場合が多いため、以前のパートナーから感染して気付かず、今のパートナーと付き合うようになってから症状が表れることもあります。パートナーに梅毒の検査をする必要があることを正直に伝え、あなたにとってパートナーは大切な存在である、という思いやりを持って伝えましょう。

梅毒の検査手法

梅毒の検査方法は、一般的には医師の診察と血液検査結果から診断し、血液検査では採取した血液から体内の梅毒の「抗体」を確認します。

感染機会から最低でも3週間以上経っていないと抗体が検出されません。期間前は感染したか不明な「ウインドウピリオド」とよばれます。梅毒検査をする際は、感染機会から最低でも3週間以上空けてから検査をすることが大切です。

梅毒の抗体を調べる方法はTPHA法とRPR法の2つがあり、各検査方法を紹介します。

TPHA法

TPHA法は梅毒トレポネーマに対する特異的な抗体を測定するため、梅毒以外ではほぼ陽性になりません。検査結果の基準は「+:陽性」、「-:陰性」です。

TPHA法単独で梅毒と診断することはほぼなく、もう一つのRPR法の結果と併せて感染の有無を調べます。以下にTPHA法とRPR法の陽性と陰性結果の見方をまとめました。

TPHA法RPR法結果の見方
1陰性陰性梅毒ではないまれに梅毒感染の初期
2陰性陽性生物学的偽陽性まれに梅毒初期
3陽性陰性梅毒治癒後の抗体保有者TPHA偽陽性
4陽性陽性梅毒である梅毒治癒後の抗体保有者

偽陽性とは、本来は「陰性」であるのに「陽性」と検査結果が表示されることです。TPHA法で「陰性」、RPR法で「陽性」の場合は梅毒初期または生物学的陽性の疑いがあります。そのため、感染の可能性がある場合は3~4週間後に再検査して、梅毒初期か生物学的偽陽性か判断します。

RPR法

RPR法は、梅毒に感染すると産生される抗脂質抗体(カルジオリピン抗体・レシチン抗体)を検出します。梅毒に特異的な指標ではありませんが、活動性を確認する指標になります。

検査結果の基準は「+:陽性」と「-:陰性」であり、数値も判断の際に大切です。RPR法は感度がよいのが特徴で、TPHA法では陽性にならない早期の梅毒感染を発見できます。

しかしながら、抗脂質抗体は他の疾患にかかっていても陽性となることがあるため、梅毒に感染しなくても偽陽性になる可能性(生物学的偽陽性)があるため注意が必要です。TPHA法と同様にRPR法の単独の検査結果で梅毒を判断せず、TPHA法の検査結果とあわせて感染の有無を確認しましょう。

RPR法が陰性・陽性となった場合の診断は、TPHA法で紹介した結果の見方の表と同様です。

生物学的偽陽性となりやすい疾患

生物学的偽陽性となりやすい疾患は以下のとおりです。

  • 水痘
  • 全身性エリテマトーデス(ALS)
  • ハンセン病
  • ウイルス肝炎
  • 伝染性単核球症
  • マイコプラズマ肺炎 など

さらに妊婦や高齢者も偽陽性となるケースがあります。

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【男女別】梅毒の症状

梅毒は感染後の期間によって表れる症状が異なり、期間は第1期、第2期、第3期、第4期に分けられます。また、梅毒に感染していても症状が表れないケースを「無症候性梅毒」といい、長い期間感染に気が付かないケースもあるため、注意が必要です。

なお現代では、第3期梅毒まで経過する前に梅毒が発見され治療されることがほとんどのため、第3期や第4期はあまりみられません。梅毒にはどのような症状があるのか、期ごとに男女別に解説します。

第1期梅毒(感染後から約3週間~3か月)

第1期梅毒は、梅毒に感染後から約3週間~3か月を指します。感染後から約3週間が経過すると、梅毒トレポネーマが侵入した口唇、口腔内、性器、肛門などの部位に、初期硬結(しょきこうけつ)とよばれるしこりが生じます。

その後、しこりが破裂して硬性下疳(こうせいげかん)とよばれる潰瘍(ただれ)になります。潰瘍には梅毒トレポネーマが大量に存在するため、そこから感染させてしまうことが多いです。

しこりが表れる部位は以下のとおりです。

  • 男性:亀頭、陰茎、亀頭と陰茎の間、性器周辺の皮膚
  • 女性:膣内、大陰唇・小陰唇周辺の皮膚

男女共に、口唇や口腔内にしこりが表れることもあります。しこりは痛みなどの症状を伴わなかったり、見えない箇所にできたりするため、見逃してしまいがちです。

しこりは自然に消失するため、治癒したと勘違いする場合がありますが、適切な治療を受けなければなりません。その理由は、梅毒トレポネーマは血管内に侵入している状態のため、治療をしないと第2期に移行するからです。

第2期梅毒(感染後から約3か月以上経過)

第2期は梅毒に感染後から約3か月以上経過した頃をさし、菌が血液により全身をめぐり、さまざまな症状が表れます。全身症状と梅毒特有の皮膚症状があり、どちらも男女共通して表れる症状です。全身症状は発熱、全身のけだるさ、頭痛、喉の痛み、リンパの腫れ、関節痛などがあります。

梅毒特有の皮膚症状は以下のとおりです。

  • バラ疹

体幹を中心とした顔、四肢、手のひら、足の裏などのうっすら赤い皮疹

小さなバラのように見えることからバラ疹と呼ばれる

  • 膿疱性梅毒

体幹を中心とした顔、四肢、手のひら、足の裏などの膿を含むイボ

  • 梅毒性乾癬

乾癬に似たカサカサした皮疹

  • 扁平コンジローマ

通常の尖圭コンジローマとは異なる梅毒感染が原因となる扁平上のイボ

陰部や肛門周囲に表れやすい

  • 脱毛

頭皮の一部、または全体の髪の毛が脱毛

  • 梅毒性粘膜炎

口や喉の粘膜に赤色や乳白色の炎症

上記の症状は数週間~1ヶ月ほどで自然に消失します。通常は第2期には異常に気付き、医療機関にて梅毒を発見し治療するケースが多いです。しかし適切な治療がされないと、第3期へ移行します。

第3期梅毒(感染後から約3年~10年以上経過)

第3期は梅毒に感染後から約3年~10年経過した状態です。この時期になると、骨や筋肉、あらゆる臓器にゴム腫といわれるゴムのような腫瘍ができます。ゴム腫は周囲の骨や細胞を破壊してしまうため注意が必要です。

また、「梅毒になると鼻が落ちる」といわれる理由は、ゴム腫は特に鼻にできやすく、鼻の骨や細胞が破壊されることからそのように言われるようになりました。ただしこの症状は、梅毒の医療が整っていない江戸時代にみられた症状といわれ、現在ではゴム腫をみることは稀です。

第4期梅毒(感染後から約10年以上経過)

第4期は梅毒に感染後から約10年以上経過した時期を指します。梅毒トレポネーマが心臓血管系や中枢神経系まで侵入し、あらゆる症状が表れ最終的には死に至ります。ただし、現在は第4期の症状をみることはほとんどありません。

症状は心疾患系梅毒と神経梅毒の2つがあり、詳細は以下のとおりです。

心血管系梅毒

  • 大動脈瘤(大動脈の壁にコブができた状態)を形成する
  • 大動脈弁が損傷し心臓の血液が上手くおくれない
  • 冠状動脈(全身に酸素と栄養をおくる血管)が狭窄する

大動脈瘤が破裂すると命に危険を及ぼします。

心血管系梅毒の症状により心不全や心臓発作を起こし、死に至ることもあります。

神経梅毒

  • 進行性麻痺

脳が侵され、精神障害や認知症に似た症状が表れる

頭痛や物忘れ、思考力・集中力の低下、妄想などがある

  • 脊髄癆(せきずいろう)

脊髄が侵され、体の痛み、排尿障害、歩行障害、感覚障害などがある

第4期まで進行し心臓血管や中枢神経が侵されると、治療で元に戻すことはできません。

梅毒の感染経路

梅毒の感染経路は、感染者と粘膜や皮膚で直接触れると、梅毒の細菌である梅毒トレポネーマが非感染者の体内に侵入して感染します。感染経路のほとんどは、性行為や性行為に似た行為(オーラルセックス)です。

具体的には性器と性器、性器と肛門、性器と口腔が感染経路になり、キスでも感染し、稀ですが輸血で感染することもあります。妊娠中に子どもに感染するケースもあり、早産や死産となるリスクがあるため注意しなければなりません。

梅毒の感染確率

梅毒に感染して1年未満(早期梅毒)の人と、1回の性行為で梅毒に感染する確率は約30%で、性病の中でも感染確率が高いです。また出産間近の妊婦の場合、梅毒に感染する確率は約60%以上といわれ、非常に高いことが分かります。早期梅毒は感染力が高く、感染後梅毒の症状のない期間であっても、非感染者にうつす可能性があるため注意が必要です。そのため新しいパートナーができた際は、キスや性行為をする前に梅毒検査をすることが望ましいといえます。

梅毒の潜伏期間

梅毒の潜伏期間(症状が表れるまでの期間)は、感染してから約3週間です。潜伏期間は人によって10日と短かったり、90日と長かったりすることもあります。

そのため、心当たりのある感染の機会から3週間ほど経過した後、症状が表れていないからといって梅毒に感染していないとは言い切れません。潜伏期間を経て、第1期梅毒の症状であるしこりが生じます。しこりは自然に消失することから、梅毒と気が付かず見逃すケースもあるため注意しましょう。

梅毒の感染者数

厚生労働省によると、梅毒の感染者数は2021年以降、男女ともに増加傾向にあります。梅毒の感染者数の報告は2011年頃から徐々に増え、2019年から2020年に一旦減少しましたが、2021年以降大幅に増加しました。

2022年は10月下旬の時点で、10,000件を超える報告があり、2021年の7,978件を上回っています。年代別にみると、男性は20代~50代にかけて多く、女性は20代が最も多く感染していることから、自分とパートナーを守るためにも梅毒検査が必要であり、早期発見・早期治療が大切です。

梅毒の治療

梅毒の治療は、内服薬と筋肉注射があります。内服薬はペニシリン系の抗菌薬を用い、第1期だと2~4週間、第2期だと4~8週間と長期間の内服が必要です。梅毒は自然治癒しない病気のため、内服は自己中断せず継続しなければなりません。

筋肉注射は内服薬と同じペニシリン系であり、2022年から新しく用いられた治療法で、早期梅毒(感染して1年未満)の場合は1回の筋肉注射で治療が完了します。感染期間が1年以上、または感染期間が不明の場合は3回の注射が必要です。

梅毒の予防策

梅毒の感染を予防するには、コンドームを着実に使用し、粘膜と皮膚が触れないようにします。しかしコンドームを覆わない部位からの感染や、オーラルセックスでも感染するリスクがあり、100%防げるわけではありません。

また不特定多数との性行為を控えることでも梅毒の予防になります。梅毒を含む性病は自覚症状が無いことがあり、誰が感染しているのか分からないことから、不特定多数の性行為は性病に感染するリスクを高めてしまいます。

皮膚や粘膜に異常が見られた場合は、体の触れ合いは控え、なるべく早く医療機関を受診しましょう。

まとめ

梅毒(ワ氏)の検査はTPHP法とRPR法があり、2つの検査結果と医師の診察で梅毒か判断されます。

梅毒に感染後約3週間でしこりが生じますが、しこりに気が付かないことや自然消失するために、梅毒に感染したと気づかず、第2期に至ることが多くあります。現代の医療は、梅毒は早期発見・早期治療により完治ができる病気です。

皮膚や粘膜に気になる症状がある場合や、感染の心当たりがある場合は、早めに医療機関の受診をしてください。

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