「生理の出血量が多いのかもしれない」
「過多月経を治す方法はあるの?」
このような疑問や不安を抱えている方がいるのではないでしょうか。
生理の出血量が多すぎる「過多月経」は、放置すると急に倒れたり、病気が進行したりする可能性があります。
この記事では、過多月経の原因や治療法についてご紹介します。
過多月経を疑っている方や治す方法を知りたい方にとって、適切な治療を受けるための手助けになれば幸いです。
生理の出血量が多い「過多月経」とは
過多月経とは「生理の出血が異常に多い状態」です。
生理の正常な出血量は、20~140mlです。もっとも出血量が多い日でも、2~3時間に1回のナプキン交換で済みます。一方、過多月経の出血量は150ml以上とされています。
過多月経のセルフチェック
過多月経の目安となるセルフチェックポイントをご紹介します。
【過多月経のセルフチェックポイント】
- 出血量が多く、2時間以内にナプキン交換をしている
- 昼間でも夜用ナプキンをしている
- 100円玉サイズ以上のレバーのようなかたまりが混じる
- 生理が8日以上続く
- フラフラする・めまい・疲れやすいなどの貧血症状がある
セルフチェックで当てはまる方は、月経過多の可能性が高いでしょう。
過多月経の原因
過多月経の3つの原因は、以下のとおりです。
- 器質性疾患
- 機能性疾患
- 内科的疾患
それぞれの原因について詳しくみていきましょう。
器質性疾患
子宮の形や大きさの異常などの病気を「器質性疾患」といいます。器質性疾患は30歳代以降で増える傾向があり、内診・超音波検査・子宮鏡検査・子宮がん検診などで診断します。
器質性疾患に含まれる代表的な病気は、次のとおりです。
- 子宮筋腫
- 子宮腺筋症
- 子宮内膜ポリープ
- 子宮体がん
- 子宮頸がん
これらの病気が過多月経につながる理由をみていきましょう。
子宮筋腫
子宮筋腫は、子宮の筋肉から発生する硬い球状の良性腫瘍です。子宮筋腫で生理の量が増える理由は、子宮内が変形して、はがれ落ちる内膜の量が増えるためだと考えられています。
子宮筋腫は1~複数個発生し、卵巣から分泌される女性ホルモンの働きで大きくなり、数10cmになることもあります。
20~30歳以上の女性は約30%に子宮筋腫があり、婦人科の腫瘍ではもっとも多い病気です。
子宮筋腫はできる場所によって、子宮の内側にできる「粘膜下筋腫」、子宮の筋肉内にできる「筋層内筋腫」、子宮の外側にできる「漿膜下筋腫」に分けられます。
とくに、粘膜下筋腫は小さくても症状が強く、生理の量は多くなりやすいことが特徴です。
子宮筋腫の主な症状は月経痛です。他には、腹痛・頻尿・排尿痛などの症状があります。
子宮腺筋症
子宮腺筋症は子宮の筋肉にできる「子宮内膜症」です。子宮腺筋症で子宮筋の出血を止める機能が低下すると、過多月経につながります。
子宮内膜とは子宮の一番外側をおおっている組織で、妊娠中に受精卵を育てるベッドの役割を果たします。妊娠しないと、子宮内膜がはがれ落ちる「生理」を迎えるのです。
子宮腺筋症の原因は明らかになっておらず、正常な子宮内膜が何らかの原因で、子宮の筋肉内にもぐりこんでしまうと考えられています。
子宮腺筋症で多い症状は、過多月経と月経痛です。過多月経の症状は強く「出血が持続してトイレからでられない」「夜用ナプキンが30分であふれる」などの症状がみられるでしょう。
また、生理のときに子宮内膜から「プロスタグランディン」というホルモンが分泌されて、子宮が過度に収縮すると強い月経痛が生じます。
そのほかにも、肛門痛・吐き気・下痢などの症状がみられる場合があります。
子宮内膜ポリープ
子宮内膜ポリープとは子宮内にできる良性のポリープで、子宮内腔の表面積が大きくなるため、過多月経の原因になります。
皮膚や粘膜などに突出して、茎をもつ腫瘤が「ポリープ」です。ポリープの大きさは1cm以下~数cmで、複数個できる場合もあります。
子宮内膜ポリープは必ずしも症状があるとは限りません。しかし、「不正出血」や受精卵の子宮内膜への着床を妨げて「不妊症」の原因になる可能性があるため軽視できない疾患です。
子宮体がん
子宮がんには、子宮の上部にできる「子宮体がん」と、入り口にできる「子宮頸がん」があります。90%以上の方に過多月経を含む「不正出血」がみられ、生理ではない期間に出血が起きたり、閉経後に出血が起きたりします。
出血が起こりやすいのは、がん組織の血管が破れやすく、出血しやすいためです。また、がんが大きくなると周辺の組織に広がり、近くの血管に食い込んで出血します。
子宮体がんは子宮内膜にできるがんで、全年代で患者数が増えており、40代後半から増え始めて50~60代の罹患率が高い傾向です。
子宮体がんが進行すると、次のような症状がみられます。
- 下腹部の痛み
- 性交時の痛み
- 腰痛
- 排尿障害
- 排便障害
- 下肢のむくみ・痛み
子宮頸がん
子宮がんのうち7割を占める「子宮頸がん」は、生理の出血量が多くなったり、生理中以外や性交時にも出血がみられたりします。
子宮頸がんの多くは、性的接触によるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因です。HPV感染はほぼ自然に治りますが、10%が長期感染となり、数年かけて子宮頸がんに進行します。
子宮頸がんは、早期発見だと比較的治療しやすく予後のよいがんですが、進行して転移すると治療が困難です。
ほかの症状として、臭いを伴う濃い茶色や膿のようなおりもの、水っぽいおりものや粘液がでる場合があります。がんが進行して子宮外に広がると、
- 多量の出血
- 骨盤・腰・下肢の痛み
- 尿や便に血が混じる
などの症状がでる場合もあります。
機能性疾患
機能性疾患は臓器の働きや動きが不十分な状態で、代表的なものは次のとおりです。
- 黄体機能不全
- 無排卵性周期症
それぞれの特徴についてご説明します。
黄体機能不全
黄体機能不全は、排卵後に黄体と呼ばれる組織から分泌される「黄体ホルモン」の量が低下したり、子宮内膜の黄体ホルモンに対する反応が悪くなったりする状態です。
黄体ホルモンは子宮内膜を受精卵が着床しやすい状態にする働きがあり、黄体機能不全によって子宮内膜がはがれ落ちて出血しやすくなると、過多月経につながります。
黄体機能不全の診断方法は、基礎体温の確認やホルモン検査などです。
自覚症状はみられず、卵子が着床しにくいため「流産」や「不妊症」の原因になります。
無排卵性周期症
無排卵性周期症は、生理のような出血があるにも関わらず、排卵はしていない状態です。
脳にある視床下部の異常や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などが原因で無排卵性周期症になると、過多月経を含む不正出血が起こる可能性があるでしょう。
生理の量や周期に異常があり、基礎体温が1相性のときに無排卵性周期症と診断されます。初経後の1~2年程度や閉経前に、無排卵性周期症が多くみられます。
多嚢胞性卵巣症候群は卵巣で男性ホルモンが過剰に作られて、排卵がしにくくなる病気です。女性の20~30人に1人の割合でみられ、はっきりした原因は不明です。超音波検査で、排卵されずに残った多くの卵胞(嚢胞)が認められます。
多嚢胞性卵巣症候群は、他に次のような症状がみられます。
- 無月経
- 月経不順
- にきび・多毛
- 肥満
- 血糖値の異常
- 不妊症など
内科的疾患
出血が止まりにくくなる病気は、過多月経につながる可能性があります。
過多月経の原因となる内科的疾患は、以下のとおりです。
- 白血病
- 血友病
- 肝機能障害
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
- フォン・ヴィレブランド病
- 甲状腺機能の異常
過多月経は、婦人科の病気だけが原因になっているとは限らないのです。
過多月経を放置するリスク
過多月経を放置すると「貧血が進んで倒れる」「突然の大量出血で救急外来に運ばれる」などのリスクがあります。
本人が貧血状態に慣れてしまっていたり、他の人も同じくらいの生理の量だと考えたりして、受診が遅れやすいためです。「バスタオルを敷いていてもタオルが真っ赤になる」「生理の漏れが不安で出かけられない」などの明らかな過多月経を放置すると、命に関わるかもしれません。
頻度は低くても「がん」や「血液疾患」が隠れている可能性もあり、早期受診や適切な治療が重要です。
過多月経を治す方法
過多月経の治療となる、次の3種類についてお伝えします。
【過多月経の治療】
- IUS(子宮内避妊システム)
- 低用量ピル
- 手術
妊娠希望や子宮を残したいかによって、自分に合った治療を選びましょう。
H3. IUS(子宮内避妊システム)
IUS(子宮内避妊システム)は膣から子宮内に挿入すると、長期に黄体ホルモンを放出する作用があります。黄体ホルモンは子宮内膜の増殖をおさえる働きがあり、子宮内膜を薄くして生理の量を減らせるのです。
IUSは避妊の効果があり、生理痛の緩和も期待できます。
IUSには次のようなメリットとデメリットがあります。
【IUSのメリット】
- 外来で挿入ができ、入院する負担がない
- 1度装着すると、基本は5年間使用できる
- 治療の中断希望時は、外来で抜去できる
- IUSは子宮内にのみ黄体ホルモンが作用するため、全身への副作用がでにくい
【IUSのデメリット】
- 挿入後、不正出血や月経不順が起きる可能性がある
- まれに、IUSに加わった黄体ホルモンの影響で肝機能障害や乳房痛が出現する
- IUSは自然に抜けてしまう場合がある
- 重篤な合併症として、骨盤内感染・子宮穿孔・卵巣嚢腫破裂がある
IUSは1度装着すると長く留置できるため、毎日薬を飲むのが大変な方には適した治療でしょう。
低用量ピル
ルナベルやヤーズなどの低用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が含まれています。低用量ピルが過多月経に効果的な理由は、子宮内膜に作用する点です。低用量ピルを服用すると、内膜が厚くならないため、生理の量が減少するのです。
経口避妊薬と同じ働きをもつ薬で、子宮内膜症や月経困難症の治療にも使われています。
過多月経以外にも、低用量ピルには次のような効果と副作用があります。
【低用量ピルの効果】
- 月経痛の改善
- 子宮体がんのリスク低下
- 卵巣がんと卵巣嚢腫のリスク低下
- にきびの減少
【低用量ピルの副作用】
- 軽い頭痛や吐き気
- 少量の不正出血
- 血栓症
毎日薬を内服する必要はありますが、治療を始めやすい点がメリットです。
手術
子宮筋腫や子宮腺筋症は、単純子宮全摘術や筋腫核出術をされる方がいます。ご本人の出産希望や子宮温存希望の有無で、治療方針を選択します。
単純子宮摘出術は子宮をすべて摘出する手術で、妊娠の希望がなく子宮を温存しなくてよいときが適応です。身体への負担が少ない腹腔鏡手術も、よく実施されています。
筋腫核出術は筋腫だけ切除して子宮体部を残せるため、妊娠希望のある方や生殖年齢の方が適応です。
まとめ
この記事では、生理の出血量が多くなる「過多月経」を引き起こす病気や治療法についてお伝えしました。
過多月経の主な原因として、子宮筋腫・子宮腺筋症・子宮がんなどの「器質性疾患」や、黄体機能不全や無排卵性周期症などの「機能性疾患」が考えられます。
過多月経を放置すると貧血が進行し、急に倒れてしまう可能性があります。
過多月経にはIUS(子宮内避妊システム)・低用量ピル・手術などの治療法があり、セルフチェックポイントが当てはまる方は、早めに受診して適切な治療を受けるようにしましょう。