生理の前に起こるつらい症状をPMS(月経前症候群)といいます。PMSのつらい症状を和らげてくれるのが、避妊などにも用いる女性ホルモン剤(ピル)です。
今回はPMS対策としてのピルが気になっている方に向けて、そもそもPMSとはどんな症状かについて簡単に説明するとともに、PMS対策で使われるおすすめのピルをご紹介します。
また、PMS対策でピルを使用する場合、保険適用になるのかについてもご説明いたします。
PMSとは
PMS(月経前症候群;premenstrual syndrome)とは、日本産婦人科学会によると、「経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するもの*」とされています。以前は月経前症候群などと呼ばれていたものと同じ病態です。
PMSの原因
PMSは、一つの原因で起こるというタイプの病気ではありません。主な原因としては生理周期にまつわる女性ホルモンの分泌量の変動とそれに対する神経伝達物質の感受性との関連が疑われています。
このほか、精神的・社会的なストレスなどが大きく関与すると言われています。喫煙やアルコールの摂りすぎ、マグネシウムの不足などとの関連も指摘されています。
PMSと月経困難症の違い
PMSと月経困難症は、似ているようで全く異なる病態です。PMSは月経前に症状が始まり、月経が来るとともに症状が落ち着くのが特徴です。それとは反対に、月経困難症は、月経が始まるとともに症状が出るのが特徴となります。
また、PMSは明らかな原因となる病気がないことが診断の条件となりますが、月経困難症の多くは子宮内膜症や子宮筋腫など、婦人科系の病気が原因となっています。
PMSと月経困難症は同時に存在することもあります。例えばPMSの症状がありながら、生理痛も非常に強く、月経が始まっても症状が良くならないということは十分あり得ます。
PMSの症状
PMSの症状は、大きく分けると精神的な症状と身体的な症状、そして自律神経的な症状に分けることができます。
生理前に不快な症状を感じたことがある方は多いと思いますが、あまり困っていない場合はPMSとは呼びません。生理前の不快な症状で、日常生活に支障が出ている場合をPMSとします。
PMSの診断基準には、精神的な症状と身体的な症状の両方が記載されており、それらのうち少なくとも1つの症状が過去3回の連続した生理周期に起こったそれぞれの生理の5日前に存在すれば、PMSと診断して良いことになっています。
ただし、これらの症状は生理が始まったら遅くとも4日以内には消失し、少なくとも13日目まで再発しないことが求められています。
精神的な症状
PMSで見られる精神的な症状としては、多い順から、いらいら、のぼせ、怒りっぽくなる、落ち着きがない、憂うつなどがあります。このほか、眠気や不安、集中力の低下のほか、精神錯乱、引きこもりなどの症状が起こることがあります。全般的に、気持ちが不安定になるのが特徴です。
なお、精神的な症状が主体のPMSで、症状が非常に強いものを月経前気分障害(PMDD;premenstrual dyspholic disorder)として区別しています。PMDDの場合は、日常生活や対人関係に著しい支障をきたすことが多いです。婦人科で行うPMSの治療で効果が見られない場合は、精神科や心療内科での専門的な治療が必要となります。
身体的な症状
PMSで見られる身体的な症状として、多い順から、下腹部膨満感、下腹痛、腰痛、頭重感、頭痛、乳房痛などがあります。このほか、便秘、肌荒れ、手足のむくみや体重増加、関節痛や筋肉痛などをきたすこともあります。
自律神経系の症状
PMSで見られる自律神経系の症状としては、食に対する症状(食欲が増す方と食欲がなくなる方がいます)やめまい、身体のだるさ(倦怠感)などがあります。甘いものが食べたくなるという方も意外と多いです。
PMS対策にピルは有効?
PMS対策にピルは有効です。そもそも排卵および生理が起こること、またそれに伴い身体の中の女性ホルモンの値が大きく変わることが根本的な原因なので、ピルによって排卵を止めて女性ホルモンの値の変化をなくすことで、PMSの症状は大きく改善します。
PMS対策に使われるおすすめのピルの種類
PMS対策に使われるおすすめのピルの種類は、低用量ピル(OC;経口避妊薬)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)です。これらの薬には比較的少ない量の女性ホルモンが配合されており、薬を飲んでいる間だけ排卵を止め、生理が止まります。薬をやめるとすぐに排卵が戻り、後の妊娠に影響を与えません。
PMSの治療には、低用量ピルの中でもさらにホルモン量の少ない超低用量ピルが用いられることが多いです。商品名としては、ルナベル、ルナベルULD、ヤーズ配合錠、ヤーズフレックス配合錠などがあります。いくつかあるピルの中から、診察の結果、お一人お一人に最も合ったものを処方いたします。
ピルの処方の流れ
PMSでピルを処方する場合は、婦人科での診察が必要となります。健康保険を適用するには、ピルを内服する必要のある病名の記載が必要だからです。問診にてPMSの可能性が高そうな場合、内診や経膣超音波検査(膣に器械を入れて行う超音波検査)などで、婦人科系の明らかな病気がないことを確認します。
問診では、ピルを処方できない、もしくは注意して飲む必要のある持病や体質などがないかも同時に確認しています。例えば40歳以上の方、現在タバコを吸っている方、肥満(BMIが30を超える方)などです。
PMSでピルを使う場合は保険適用になる?
当院の場合、PMSのみでは保険適用にはなりません。月経困難症でピルを用いる場合は保険適用になります。
ピルの服用方法
ピルは1日1回1錠を同じ時間に飲みます。これはどんなピルでも同じです。1シート21錠のタイプと28錠のタイプの違いは、休薬する期間が必要かどうかです。休薬期間中に卵巣や子宮の働きが回復し、消退出血が起こります。28錠のタイプは休薬期間がない代わりに、ホルモンの含まれていない偽薬を内服しています。
1シート21錠のタイプには、ホルモンの含まれない偽薬(プラセボ)が含まれておりません。21錠を飲み切った後は、7日間内服をお休みしたのち、8日目に次のシートの錠剤を飲み始めます。出血が終わっているかどうかに関わらず、お休み期間後の飲み忘れがないように気をつけましょう。
1シート28錠のタイプには、ホルモンの含まれない偽薬(プラセボ)が含まれています。28錠を飲み切った後は、出血が終わっているかどうかに関わらず、翌日から次のシートの錠剤を飲み始めます。
ピルを服用する際の注意点
ピルは、決められた時間に毎日きちんと内服することで効果を発揮します。飲み忘れのないように注意しましょう。
また、ピルの重大な副作用には血栓症があります。足の静脈に血の塊ができる病気です。血の塊が血液の流れに乗って心臓から肺に到達すると、肺塞栓症という命に関わる重大な病気を引き起こします。
ピルを内服している間に激しい胸痛や腹痛・頭痛、息切れ、ふくらはぎの痛みやむくみなどの症状が出た場合は、すぐに処方された医師にご相談ください。
ピルについてよくある質問
ここではピルについてよくある質問に回答します。
私に合うピルはどんなピル?
どのピルが良いかは、年齢や症状、持病などによって異なります。一緒にピルを選ぶお手伝いを致しますので、お気軽にご相談ください。
ピルを飲み忘れた場合はどうすれば良い?
ピルを何日間飲み忘れたかによって異なります。
1日分だけ飲み忘れた場合は、すぐに飲み忘れた分の1錠を飲みます。それに加えて、今日の分の錠剤を通常通り飲みます。つまり、飲み忘れの分+本来内服する分の2錠を1日に内服することになります。次の日からは予定通りの時刻に予定通りの錠剤を内服します。
2日以上続けて飲み忘れた場合は、気がついた時点で飲み忘れた2錠を内服し、その後は予定通りに内服します。
3日以上忘れた場合は、飲み忘れたシートはもう利用できません。飲むのをやめ、次の月経の初日から新しいシートでピルを再開しましょう。その間は避妊効果がほぼないので、コンドームなどでしっかりと避妊を行いましょう。
まとめ
以上、PMSとは何かについて簡単にまとめるとともに、PMSにピルは効くのか、またPMSにおすすめのピルの種類やピルの内服方法などを解説しました。
PMSで辛い毎日を過ごしている方には、ぜひ一度ピルをお試しいただきたいと思います。お気軽にご相談ください。