「外だしなら妊娠しないから大丈夫」、本当にそうでしょうか? もしあなたが「外だしって本当に避妊になるの?」「どのくらい安全なの?」と少しでも不安や疑問を感じているなら、この記事がきっと役に立ちます。
この記事では、まず「外だし(腟外射精)」の妊娠率を他の避妊法と比較したデータと共に解説し、なぜ「外だし」で妊娠するのか、その医学的根拠を明らかにします。さらに、万が一「外だし」をして不安な場合の具体的な対処法に至るまで、産婦人科専門医が分かりやすく徹底解説します。
外だし(膣外射精)の妊娠率

「外だし(膣外射精)」は、他のしっかりとした避妊方法と比べると、残念ながら妊娠してしまう可能性がとても高い方法です。 まずは、以下の表で主な避妊方法の妊娠率を比較してみましょう。
避妊方法 | 1年間で妊娠する人の数(100人あたり) | 備考(主な特徴) |
---|---|---|
外だし(膣外射精) | 4人〜27人 | 性感染症は防げない。妊娠しやすい。 |
コンドーム | 2人~15人 | 性感染症も防げる。正しく使うことが大切。 |
低用量ピル | 1人~数人 | 毎日飲む必要あり。生理痛が軽くなることも。性感染症は防げない。 |
IUD(銅付加子宮内避妊具) | 1人 ~ 2人 | 長期間効果あり。お医者さんに入れてもらう。性感染症は防げない。 |
IUS(ホルモン付き子宮内避妊具) | 1人未満 | 長期間効果あり。生理の量が減ることも。お医者さんに入れてもらう。性感染症は防げない。 |
避妊手術(女性) | 1人未満 | ほぼ永久に避妊できる。元に戻すのは難しい。性感染症は防げない。 |
避妊手術(男性) | 1人未満 | ほぼ永久に避妊できる。元に戻すのは難しい。性感染症は防げない。 |
なにも避妊しない場合 | 85人 | – |
この表から、「外だし」を1年間続けると、100組中4組から多い時には27組ものカップルが妊娠する可能性があると分かります。これは低用量ピルやIUD(銅付加子宮内避妊具)と比較して、妊娠する確率が何十倍も高いことを意味します。
「1年間で妊娠する人の数(100人あたり)」は、専門的には「パール指数」と呼ばれます。この数字が小さいほど避妊効果が高く、妊娠しにくいことを示します。
※参考元:日本産婦人科医会「望まない妊娠を繰り返さないために」
なぜ「外だし(膣外射精)」はこんなに妊娠しやすいの?
「外だし」の妊娠しやすさに「4人から27人」と大きな幅があるのは、この方法が状況に大きく左右される不安定なものだからです。具体的な理由は下記のとおりです。
- 射精タイミングのコントロールが極めて困難であること:男性自身も、その日の体調や気分により、完璧なタイミングで腟外へ射精できるとは限りません。
- 性交中の状況による影響:性的興奮の高まりや普段と異なる体位は、射精コントロールを一層困難にする要因となり得ます。
- 射精前に分泌される我慢汁(カウパー腺液)への精子混入の可能性:射精前に分泌される透明なカウパー腺液中に、ごく少量の精子が含まれる場合があります。この精子の量や混入の有無は、個人差や状況により変動します。
これらのことは、前もって予測するのが難しいため、妊娠しやすさに大きな幅が出てしまうのです。この予測不能な不安定さこそ、私たち産婦人科医が「外だしは避妊法とは言えません」と伝える大きな理由の一つです。
外だし(膣外射精)で妊娠してしまう医学的な理由を徹底解剖

「外だし」をしても妊娠してしまうのは、決して運が悪かったからだけではありません。
そこには、無視できない医学的な理由が主に3つあります。
1.射精前の「我慢汁(カウパー腺液)」に潜む精子
まず、多くの方が気にされるのが「我慢汁(カウパー腺液)」の存在です。カウパー腺液は、男性が性的興奮を感じた際に、射精より前に尿道から分泌される透明な液体で、主に尿道を潤滑にし、精子が通りやすいように尿道の酸性を中和する役割があります。
問題は、このカウパー腺液にごく少量の精子が含まれる可能性がある点です。これは、射精前に尿道内に残っていた精子や、無意識に漏れ出た精液の一部が混入するためと考えられます。ごくわずかな精子でも、条件が揃えば妊娠に至る可能性は否定できません。
特に「外だし」という行為は、膣内にペニスを挿入している間にカウパー腺液が分泌されるため、射精のタイミングをコントロールできたとしても、それ以前に精子が膣内に侵入しているリスクがあるのです。
我慢汁の妊娠率について詳細を知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

2.射精をコントロールするのは困難
次に、射精のタイミングを完璧にコントロールすることの難しさが挙げられます。射精は、ある程度は意志でコントロールできますが、最終的には反射的な生理現象です。
性的興奮が高まっている状態では、冷静な判断力や身体の精密なコントロールが普段よりも難しくなるのは自然なことです。そのため、「完全に膣外へ射精したつもり」でも、実際には射精の初期段階で、ごく微量の精液が意図せず膣内に放出されるリスクがあります。
これは、先に述べたカウパー腺液中の精子とは別に、射精のコントロールミスによる直接的な精液の侵入リスクです。
3.精子の驚くべき生命力と移動能力
そしてもう一つ、見落としがちなのが精子の生命力と移動能力です。精子は女性の体内で平均3日間、長い場合は5〜7日間も生存し、受精能力を保つことができます。
たとえ膣外(例:外陰部や大腿部)に射精された場合でも、活動的な精子を含む精液が膣口付近に付着すると、精子は自力で膣内に進入し、子宮頸管、子宮内、そして卵管へと到達する可能性があります。
特に、精液が液状で流れやすい状態であれば、そのリスクは高まります。また、手指を介して精子が膣内に運ばれてしまう可能性も、確率は低いもののゼロとは言い切れません。
このように、精子が膣外に射精されたとしても、その後の状況次第では妊娠に至るケースがあり得るのです。
外だし(膣外射精)をしてしまった時の対処法
「外だし」をしてしまい、「もしかして…」と不安な気持ちでいっぱいになっている方もいらっしゃるかもしれません。そんな時は、まずパニックにならず、冷静に状況を把握し、適切な行動を取ることが大切です。ここでは、具体的な3つのステップをお伝えします。
ステップ1.まず状況を整理(最終月経・性交日・排卵予測)
まず一番大切なのは、深呼吸をして落ち着くことです。 パニックになっても状況は好転しません。不安な時こそ、冷静に事実を確認しましょう。
以下の情報を、できるだけ正確にメモしてください。
- 最終月経開始日:いつから生理が始まったか。
- 性交日:不安な性行為があった日。
- おおよその排卵日の予測:生理周期が比較的安定している方は、次回の生理予定日から14日前あたりが排卵日の目安ですが、これはあくまで目安であり、ズレる可能性も考慮してください。
これらの情報は、後で緊急避妊薬の必要性を判断したり、妊娠検査薬を使用するタイミングを計ったり、医師に相談する際に非常に役立ちます。
ステップ2.72時間以内なら「緊急避妊薬(アフターピル)」を検討
もし、不安な性行為から72時間(3日)以内であれば、「緊急避妊薬(アフターピル)」の服用を検討してください。 アフターピルは、性行為後に服用することで、高い確率で妊娠を防ぐことができるお薬です。
アフターピルにはいくつかの種類があり、服用するタイミングによって効果や薬剤が異なります。
薬剤名 | 服用できる時間 | 避妊成功率 | 価格 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
レボノルゲストレル | 性行為後72時間以内 | 最大約95%(24時間以内) | 15,000円~ | ・国内承認 ・価格が比較的安い ・72時間以内に服用必要 |
エラ(エラワン) | 性行為後120時間以内 | 約98~99% | 17,000円~ | ・時間が経っても効果持続 ・排卵直前にも有効 ・未承認薬 |
ジョセイ | 性行為後120時間以内 | 約98~99% | 17,000円~ | ・エラのジェネリック ・効果は同等 ・日本未承認薬 |
※ 価格は診療料・処方料込み。診察内容により前後する場合があります。
※ジョセイは日本国内では未承認薬です。医師の判断と説明のもとで、患者さまの同意を得たうえで処方されます。
アフターピルは、主に排卵を抑制したり遅らせたり、受精卵の子宮内膜への着床を阻害したりすることで妊娠を防ぎます。入手するには、婦人科を受診して医師に処方してもらうのが基本です。
オンライン診療で処方を受けられる医療機関も増えています。 ルナレディースクリニックでもオンライン診療に対応しておりますので、遠方の方や来院できない方もご相談ください。

ステップ3.性交後3週間を目安に「妊娠検査薬」を使用
アフターピルの服用有無にかかわらず、不安な性行為から3週間が経過した時点、または次の生理予定日を1週間過ぎても月経がない場合に、妊娠検査薬を使用しましょう。
妊娠検査薬は、尿中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンを検出することで妊娠の可能性を判定します。このホルモンは、受精卵が子宮内膜に着床して初めて分泌され始めるため、早すぎる検査(フライング検査)では正確な結果が出ないことがあります。
必ず製品の説明書をよく読み、正しい時期に、正しい方法で使用してください。
- 陽性:妊娠している可能性が非常に高いです。速やかに産婦人科を受診してください。
- 陰性:現時点では妊娠の可能性は低いと考えられます。しかし、生理が予定通りに来ない、体調がおかしいなど、不安が続く場合は産婦人科を受診しましょう。
- 判定不能:もう一度新しい検査薬で試すか、産婦人科で相談してください。
妊娠検査薬は陰性なのに生理がこない場合は、原因や対処法を解説しています下記の記事をご覧ください。

もう「外だし(膣外射精)」に頼らない!あなたに合う確実な避妊方法を見つけよう
大切なのは、これからは「外だし」という不確実な方法に頼るのではなく、ご自身とパートナーにとって最適な、より確実な避妊方法を選択することです。ここでは、代表的な選択肢と、選ぶ際のポイントについてお伝えします。
これまで「外だし」をしていた方が次に移行しやすい選択肢や、ライフスタイルに合わせた選び方のポイントも解説しますので、ぜひ参考にしてください。
避妊方法 | 避妊効果 (一般的) | 費用感 (目安) | メリット例 | デメリット・注意点例 |
---|---|---|---|---|
外だし | 低い | なし | なし(避妊法として推奨しない) | 不確実、STI予防不可 |
コンドーム | 中程度 | 安価 | 手軽、STI予防 | 破損・脱落リスク、毎回装着の必要 |
低用量ピル | 高い | 月数千円~ | 高い避妊効果、副効用 | 毎日服用、副作用の可能性、血栓症リスク(まれ) |
IUD/IUS | 非常に高い | 初期数万円~ | 長期効果、手間なし、IUSは月経トラブル改善も | 医師による装着・除去、定期検診、不正出血の可能性 |
1.コンドームを必ず使用する
コンドームは手軽に入手でき、正しく使用すれば一定の避妊効果があり、さらに性感染症(STI)を予防できる方法です。
重要なのは、性行為の開始から終了まで常に正しく装着することです。「外だし」との併用ではなく、挿入前から射精後まで継続して使用することで、カウパー腺液による妊娠リスクやSTI感染リスクを大幅に低減できます。使用期限や保管方法にも注意し、毎回新しいものを使いましょう。
2.低用量ピルを服用する
低用量ピルは毎日正しく服用することで、排卵を抑制するなどして非常に高い避妊効果が期待できるお薬です。
避妊効果以外にも、生理痛の軽減、月経周期の安定化、PMS(月経前症候群)の改善、ニキビの改善といった副効用も期待できるため、QOL(生活の質)向上にも繋がることがあります。
ただし、毎日決まった時間に服用する必要があり、まれに副作用(吐き気、頭痛、不正出血、ごくまれに血栓症など)が起こることもあります。性感染症の予防効果はありません。
低用量ピルの服用開始には、医師の診察と処方が不可欠です。ご自身の健康状態やライフスタイルに適したピルを選択するため、まずは専門医にご相談ください。
ルナレディースクリニックはオンライン診療で低用量ピルの処方も実施しています。

3.IUD(銅付加子宮内避妊具)やIUS(ミレーナなど)を使用する
IUD(銅付加子宮内避妊具)やIUS(ミレーナなど)は、一度子宮内に装着すれば、数年間(一般的に3~5年程度)にわたり高い避妊効果が持続する方法です。
毎日の手間がなく、飲み忘れの心配もないため、確実性を重視する方や、ピルの毎日の服用が難しいと感じる方に適しています。IUS(ミレーナ)は、過多月経や月経困難症の治療にも用いられます。装着や除去は医療機関で医師が行い、定期的な検診が必要です。性感染症の予防効果はありません。
外だし(膣外射精)と妊娠に関するよくある質問
「外だし」に関しては、まだまだ疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃると思います。ここでは、特に多く寄せられる質問や、少しニッチな疑問について、産婦人科医の立場からお答えします。
1.外だしを毎回しているのに妊娠しないのは、本当に運が良いだけ?
はい、主に「運が良い」という要素が大きいと考えられます。これに加え、男性側の精液の状態(精子濃度や運動率は日々の体調等で変動)や、女性の排卵期と性行為のタイミングが偶然一致しなかった等の複合的要因も影響します。
しかし、これらは管理不能な要因であり、これらに期待して「外だし」を継続するのは極めて危険です。
2.「外に出した精液」が下着やシーツについても妊娠する?
可能性は極めて低いですが、理論上ゼロとは言い切れません。 精子は乾燥や温度変化に弱いため、体外に出された精液が下着やシーツに付着した場合、多くは短時間で活動性を失います。
しかし、精液がまだ湿っており、それが直接的に女性の性器(特に膣口付近)に多量に付着し、かつ活動的な精子が存在する、といった非常に特殊な状況が重なれば、ごくまれに妊娠に至る可能性も否定はできません。基本的には清潔を保ち、そのような状況を避けることが大切です。
3.外だしで妊娠した場合、胎児への影響はありますか?
「外だし」という行為そのものが、妊娠した場合の胎児に直接的な医学的悪影響を与えることはありません。 どのような経緯であれ、受精し着床すれば、妊娠のプロセスは同じように進みます。
問題となるのは、「外だし」が結果として望まない妊娠に繋がりやすいため、その場合の精神的・社会的・経済的な負担や困難さが大きいという点です。もし妊娠が判明したら、どのような選択をするにしても、できるだけ早く産婦人科を受診し、適切な情報提供と必要なケア(出生前診断の相談、栄養指導、精神的サポートなど)を受けることが最も重要です。

まとめ
ここまで、「外だし」の妊娠率、その医学的な理由、そして確実な避妊方法について詳しくお伝えしてきました。
改めて強調しますが、「外だし」は推奨される避妊方法ではなく、予期せぬ妊娠や性感染症のリスクを伴う不確実な行為です。 この記事を通して、そのリスクを具体的にご理解いただけたなら幸いです。
大切なのは、正しい知識を武器に、ご自身と大切なパートナーの未来を守るための選択をすることです。避妊は女性だけの問題ではありません。パートナーとしっかりと話し合いお互いが納得できる「より確実で安心な方法」を選んでください。

