梅毒という感染症について、2022年には日本での感染者数が感染症法に基づく調査が始まって以来最多となったニュースをご存じの方も多いのではないでしょうか。2023年もその勢いは収まらず、保健所などをはじめ検査体制の拡充と早期発見に取り組んでいます。今回は梅毒の歴史や発生状況、病期分類ごとの症状や治療法を中心に解説します。今回の記事を参考に正しい知識を身につけ、自分や周りのパートナーと共に予防に努めていきましょう。
梅毒について
梅毒の国内での発生は一度落ち着いてしていた時期もありましたが、2021年からは増加し続け2022年には1万件以上の症例が報告されています。
梅毒の歴史
有史以来存在したとされる性感染症ですが、梅毒は1493年にコロンブスの隊員が西インド諸島原住民との性交渉によりヨーロッパに持ち込まれたとされる感染症です。やがて日本国内には1512年、中国(江東)から倭寇によって京都へ持ち込まれ急速に国内で拡大したとされます。
明治には各地に梅毒病院が設置され、1897年に「伝染病予防法」制定、1905年にはドイツのシァウディンとホフマンが梅毒スピロヘータを発見します。1943年以降は梅毒の治療薬であるペニシリンが普及し第二次世界大戦以降激減しましたが、1990年ころから世界各地で再流行の兆しが見られました。日本では1948年に梅毒の全数報告が開始され発生件数は増減を繰り返していましたが、2021年以降は急激に増加しています。そして2022年にはついに、梅毒の報告数が1万件を超え史上最多を更新しました。
梅毒の感染状況
国内での梅毒の感染状況について、医師には全数を保健所へ届ける義務があります。厚生労働省が公表する「梅毒報告数」の推移は次のとおりです。2022年には年間で1万症例を超え、調査開始以降最多となり、ニュースでも報じられました。なお、最新データは「日本の梅毒症例の動向について」で集計が公表されています。こちらも併せて参考にしてください。
梅毒報告数
年次 | 男性(数) | 女性(数) |
2010 | 497 | 124 |
2012 | 692 | 183 |
2014 | 1284 | 377 |
2016 | 3189 | 1386 |
2018 | 4591 | 2416 |
2020 | 3902 | 1965 |
2021 | 5261 | 2717 |
2022 | 7085 | 3658 |
梅毒の疑いのある症状
梅毒という病気は、時間の経過とともにどのような経過をたどるのでしょうか。感染からの年月とともに主な症状を解説します。
第1期
第1期は感染から約3週間〜3ヶ月の間、症状が出始める時期です。性行為感染や母子感染によって感染し、第1期では初期硬結(しょきこうけつ)という硬いしこりや潰瘍が性器や口唇などの感染部位に出たり、鼠径部(股の付け根)のリンパ節が腫れたりすることもあります。
通常このしこり自体に症状は現れませんが、重複してほかの菌にも感染している場合は症状が出るケースもあります。やがてこのしこり周辺に硬性下疳(こうせいげかん)と呼ばれる潰瘍が広がるパターンと、時間とともに自然に治ることもあります。しかし、梅毒の梅毒トレポネーマは血管の中に潜伏しており、気づかないうちに第2期へと進行していく場合もあるので注意が必要です。
第2期
治療しないままでいると、感染から3ヶ月ほどで第2期へ進みます。第2期では梅毒トレポネーマ菌が血管を介して全身に広がっており手のひらや足の裏、体全体に梅毒性のバラ疹(ばらしん)というバラの花のような淡い赤い色の発疹が出始めるでしょう。
さらに発熱や頭痛、倦怠感やのどの痛み、筋肉痛を引き起こします。ときには脱毛や扁平コンジローマも起こすケースもあります。発疹自体は数週間程度で自然消滅してきますが、梅毒は治っていません。多くの梅毒はこの時期に発見され投薬治療を開始しますが、風邪やアレルギーと思っていたり放置したままでいたりすると第3期へと進みます。
第3期
通常は2期で治療が開始されますが、梅毒はやがて第3期へと悪化します。ここまで進むと感染から20~30年で10%ほどの方が心血管梅毒10%、15%ほどに感染から46年ほどの間にゴム腫が現れます。
神経が侵された場合、感染から2~3年で5%弱の割合で進行麻痺、もしくは感染から3~50年ほどの間に10%弱の方に脊髄癆を起こします。多くの臓器が侵され腫瘍が発生し、大動脈瘤形成や大動脈破裂、神経性痴呆の果てに死へといたるのです。
病期を問わない梅毒
梅毒という感染症は、上記で示したような病期による分類のほかに病期を問わない分類もあります。梅毒の病期を問わない分類には、「潜伏梅毒」「先天梅毒」のほか「神経梅毒」「眼梅毒」「耳梅毒」などがあります。
潜伏梅毒とは、梅毒トレポネーマ菌に感染していても自覚症状はないものの、検査上では梅毒抗体価が上昇しており治療を要する活動性梅毒の状態です。感染から1年以内を「早期」、1年以上を「後期」と分けます。梅毒の検査指標であるRPR、梅毒トレポネーマ抗体は時間の経過とともに上昇しています。
後期(晩期)潜伏梅毒には「ゴム腫」というゴム状の潰瘍が皮膚や筋肉、骨だけでなく肝臓や腎臓に発生します。ゴム種は周囲の細胞を破壊し、鼻骨周囲のゴム種は鞍鼻(あんび)といい鼻の欠損につながると恐れられていました。
先天梅毒は、活動性梅毒(妊娠している女性の梅毒)の妊娠女性の胎盤から胎児も梅毒に感染した梅毒のことです。症例自体は稀ですが、胎児が梅毒を発症すると出産までに死亡するケースだけでなく、梅毒に感染したことで知的障害や視覚障害をもつ子どもが産まれてしまうのです。
生後から数年以内の乳幼児期は早期先天梅毒と呼ばれ、梅毒しんや鼻軟骨炎を起こします。やがて学童期以降の晩期先天梅毒ではハッチンソン3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、ハッチンソン歯)やゴム種を引き起こす梅毒です。
妊娠12週の妊婦検診では梅毒を必ず調べますが、陽性で投薬した場合にも約14%は先天梅毒の子どもが産まれてしまいます。もし投薬しなかった場合、先天梅毒の確率は約40%まで上昇します。妊婦検診を受けない方もいますが、妊婦検診後の性交渉で梅毒に感染した場合、妊婦検診を受けたにもかかわらず出産まで気づかないケースもあるのです。
妊娠中もしくは妊活を行っている場合、夫婦ともに梅毒のような母子感染のリスクを理解し、パートナーと二人三脚で感染予防に努めることが重要です。
梅毒の検査方法と診断方法
続いて、梅毒の検査方法と診断方法を解説します。梅毒にはワクチンがなく、性交渉時に避妊行っても感染するケースもある病です。そのため、感染した場合の早期治療の徹底が必要となります。
梅毒の検査方法
日常的な診療下では、梅毒の診断を医師による診察と血液検査による「脂質抗原法(RPR)」と「TP抗原法(TPHA)」を行って判断します。なお、感染の有無を調べるには感染が疑われる機会から約1ヶ月経過後の検査が必要です。
感染していればこの間に抗体が体の中で作られ、抗体が作られるまでを「ウインドウピリオド」といいます。ウインドウピリオドの間に検査を行ったとしても、梅毒の感染はほぼ困難です。この2つの検査結果による解釈は以下のパターンに分かれます。
抗原検査法(RPR) | TP抗原法(TPHA) | 結果の解釈 |
(+) | (+) | 梅毒に感染 |
(+) | (-) | 梅毒感染初期もしくは偽陽性 |
(-) | (+) | 梅毒治療中、治癒後、擬陽性(感染していない)のいずれか |
(-) | (-) | 感染していない |
医療機関を受診する以外に、日本国内での梅毒の急速な拡大を受け各自治体では保健所などが匿名、無料で検査できるところもあります。感染が疑われる方だけでなく、接触した疑いのある方すべてが検査を受け、必要に応じて治療を開始するのが望ましいです。
梅毒の診断方法
検査の結果、治療を要する活動性梅毒の診断基準は以下のとおりです。以下の基準に満たない症例の場合、陳旧性梅毒と判断されます。
活動性梅毒の診断基準
1. 症状がある症例のうち、以下のいずれかを満たすもの
① PCR 陽性のもの
② 梅毒トレポネーマ抗体・RPR のいずれかが陽性であって、病歴(感染機会・梅毒治療歴など)や梅毒トレポネーマ抗体・RPR の値の推移から、活動性と判断されるもの
2. 症状がない症例のうち、梅毒トレポネーマ抗体陽性で、病歴や梅毒トレポネーマ抗体・RPR の値の推移から潜伏梅毒と判断されるもの
なお、梅毒の診断方法に関して、感染症診断上の「病原体同定」という原則では皮膚や粘膜などの病衣辺部位の滲出液を採取し、PCRなどによる梅毒トレポネーマが望ましいです。しかし、この方法は現状試験的実施という段階で、保険未収載のため通常の臨床では行われません。
梅毒の治療方法
上記の検査で梅毒陽性となった場合、通常はアモキシシリンなどペニシリン系の抗菌薬(抗生物質)の内服が第一選択となっています。内服治療となった場合、期間は病期や症状をふまえ医師が判断します。そのほか、テトラサイクリン系抗菌薬の「ミノサイクリン」、マクロライド系抗菌薬の「スピラマイシン」などが用いられることもあるでしょう。妊娠中の女性の場合、通常はマクロライド系抗菌薬の「アセチルスピラマイシン」を使用します。
抗菌薬という薬は、病原菌に有効な薬剤を適切な間隔、期間服用し続けることで血中の薬物濃度を維持することで効果を発揮する薬です。そのため、誤った服用を続けることで、梅毒の治療にならないだけでなく、薬剤の効かない「薬剤耐性菌」を発生させるリスクもあります。決められた用法用量を必ず守り、自己判断で中止することのないように徹底しましょう。
梅毒治療の効果判定
梅毒の治療は、投薬治療後の「効果判定検査」が重要です。効果判定検査は投薬終了後1〜2ヶ月経過後に行う血液検査です。投薬前に比べ、RPR値がどの程度低下したかで効果を判断します。梅毒の再発症例があるのは、服薬しても効果が中途半端で、治療しきれていないのが主な理由です。内服終了後から半年ほど、再発しないか慎重に経過観察を行うようにしましょう。
当然この期間は性行為を控え、療養に専念することも必要です。昨今は社会的ニーズの増加から、郵送による性感染症診断も普及しています。
まとめ
近年発生件数が急激に増加している梅毒は、感染しても症状が出るとは限らないため、知らない間に周囲へ感染を広げてしまう恐れもあります。感染症対策を含めた健康管理について理解を深め、自身の身やパートナーとの関係を守るためにも梅毒について正しい知識をつけておきましょう。
梅毒には有効なワクチンがなく、性交渉時に避妊をしても感染するケースもある病です。そのため、感染した場合の早期治療の徹底が必要となります。感染に気づくのが遅れたとしても、感染から数ヶ月は第2期までにとどまるため、重篤な予後に進むことはないでしょう。初期は風邪に似た症状も出るため、心当たりがあれば梅毒と鑑別の意味でも受診しておくのが得策です。万が一感染していた場合、必ずパートナーも一緒に治療に取り組むことが大切です。
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