梅毒は、進行すると命にかかわることもある病気です。症状を正しく理解しておくことで、梅毒に感染したことを早期に発見できるようになります。「梅毒にはどんな症状があるの?」、「梅毒に感染している可能性があるけど、どうしたらいい?」といった疑問をお持ちの人に、今回は梅毒の症状や治療方法を紹介します。
本記事では、梅毒と口内炎との違いや見分け方も紹介していますので、梅毒について知りたい人はぜひ参考にしてください。
梅毒(ばいどく)とは
梅毒とは性感染症の1つです。世界中で広くみられる感染症で、国内では2021年から感染者数が急激に増加しており、社会問題になっています。
梅毒になる原因や感染経路を知っている人は多くありません。「1度かかれば治癒できない病気」と思っている人もいるでしょう。梅毒は早期に治療することで治癒できる病気です。原因や感染経路を理解することで、早期に感染したことを知ることができます。ここから梅毒について紹介していきますので詳しくみていきましょう。
梅毒の原因
梅毒は性的な接触によってうつる性感染症です。梅毒トレポネーマという細菌が原因で、感染している箇所に粘膜や皮膚が直接接触することで感染します。
感染すると全身に赤い発疹が表れることがあり、その症状が「楊梅(やまもも)」に似ているため梅毒と名づけられました。梅毒は治療せずに長期間放置すると、心臓や脳に重篤な病気を引き起こすことがあります。そのため梅毒の感染が発覚した際には、適切な治療をすることが大切です。
梅毒の感染経路
感染者の体液に含まれている梅毒トレポネーマが、粘膜や傷口に直接接触することで感染します。さまざまな経路によって感染するため、感染経路を知っておくことが大切です。
よくみられるのは、以下のような感染経路です。
- 性器と性器の接触
- 性器と肛門の接触(アナルセックス)
- 性器と口の接触(オーラルセックス)
- 口内の傷口から感染(キス)
- 母子感染
1948年には輸血によって梅毒に感染したケースが報告されています。これをきっかけに、輸血前には献血者の血液が感染症にかかっていないか検査されるようになりました。なお厚生労働省によると、輸血によって梅毒に感染したケースは平成9年から1つも報告されていません。
一方で梅毒の感染状況は、近年増加傾向にあります。
2000年 | 2005年 | 2010年 | 2015年 | 2020年 | 2021年 | |
総数(人) | 759 | 543 | 621 | 2,690 | 5,867 | 7,978 |
社会問題になっており、厚生労働省や各都道府県の自治体が頻繁に注意喚起をしています。
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梅毒と口内炎は似ている?
梅毒は「模倣の名人」と呼ばれています。症状が他の病気と似ているため、感染したことに気付きにくいからです。初期症状として、口の中や皮膚に「しこり」が表れます。ニキビや口内炎と似ているため、素人では見分けることが難しいです。
ここでは梅毒と口内炎、それぞれの特徴と症状を紹介します。違いを知っておくことで、どちらの症状か見分けられるようになるため、確認していきましょう。
梅毒の特徴と症状
梅毒に感染すると、さまざまな症状が現れます。梅毒は他の病気の症状に似ているため、素人では判断がつきにくいでしょう。
感染初期に表れるのは、主に次の症状です。
- 口腔内、肛門、性器などにしこりができる(初期硬結)
- 感染部位に潰瘍ができる
- 陰部や口腔内にびらんができる
- 股の付け根の部分など、リンパ節が腫れる
- かゆみのない発疹
- 発熱
- 倦怠感
しこりは口の中や陰部周辺の皮膚にできるため、口内炎やニキビと間違いやすいです。しこりは痛くないことが多いですが、他の感染症と重複して感染している場合は、痛いと感じることもあります。
口内炎の特徴と症状
口内炎は、口腔内にできる炎症の総称です。原因はさまざまですが、疲労やストレス、栄養バランスの乱れ、免疫力の低下などが考えられます。口内炎の特徴は食事がしみたり、痛みを伴ったりすることです。
頬や唇、歯茎や舌など口の中に次の症状がみられます。
- 粘膜が赤く腫れる
- ポツポツと斑点や浮腫ができる
- 米粒サイズの白、もしくは黄色の膜で覆われた潰瘍ができる
- 水疱ができる
口内炎の多くは、数日から2週間程度で自然に治ります。ただし梅毒の初期症状と似ていますので、注意が必要です。
梅毒と口内炎の違い
梅毒は口内炎と勘違いされやすいですが、見分け方は2つあります。
- 腫れがある箇所の痛みの有無
- 口腔内以外の場所にしこりや潰瘍の有無
梅毒の症状は痛みを伴わないことが多いので、口内炎と見分けられます。また口腔内だけでなく、陰部や肛門周りにもしこりや潰瘍ができている場合は、梅毒の可能性が高いでしょう。
一般的な口内炎は「アフタ性口内炎」と呼ばれるもので、直系数ミリ程度の浅い潰瘍です。アフタ性口内炎の特徴は、痛みを感じることと、おおむね2週間以内で治癒することです。
2週間以上経過しても治らない場合は、梅毒や舌癌、カンジダ性口内炎など別の病気が隠れていることが考えられますので、医療機関を受診しましょう。
梅毒の症状経過について
「梅毒って、死ぬこともあるくらいの重い病気でしょ?」と認識している人も多いでしょう。しかし、梅毒の初期症状はニキビや口内炎に似ていることから勘違いし、放置してしまうこともある程の軽い症状です。
症状を知っておくことで、梅毒に感染したことを早期発見でき、重症化を防げます。梅毒の症状は1〜4期に分けられ、それぞれの期間で表れる症状が異なるため理解しておくことが大切です。ここからは、それぞれの期間で表れる症状を解説します。
1期(3週間~)
性行為やキスにより、梅毒トレポネーマが侵入した箇所にしこりや潰瘍(初期硬結)が現れます。初期硬結の出現からやや遅れて、両足の付け根部分のリンパ節が腫れることがあります。
これらの症状は痛みが伴わないことが多く、約2〜3週間で自然に消失することが特徴です。女性の場合は膣内や子宮頸部といった見えにくい場所に症状が表れることもあります。
オーラルセックスで口腔内に梅毒トレポネーマが侵入した時は、口内炎に似たしこりが口の中にできます。また、陰部にできるしこりは見た目がニキビと似ているため、感染したことに気付かない人も少なくありません。
2期(3か月~)
2期になると梅毒トレポネーマが血流に乗って全身へ広がり、さまざまな症状が出現します。表れる症状は主に次の内容です。
- 赤い発疹が、体・顔・手足などに発生する(梅毒性バラ疹)
- リンパ腺が腫れる
- 肛門周辺や陰部、膣内や子宮頸部などに扁平状のイボができる(扁平コンジローマ)
- 皮膚の一部が白くなる(梅毒性白斑)
- 発熱や倦怠感がある
- 脱毛が起こる
梅毒性バラ疹は平らで薄く赤いものから、ニキビのような膿を持つものなど、さまざまな見た目をしています。1期と同様、これらの症状は治療を受けなくても自然消失します。
3期(3年~)
梅毒に感染してから3年以上経過した場合、梅毒は3期へと進行し、重篤な症状があらわれ始めます。3期の梅毒でよくみられるのは次の症状です。
全身の症状 | ゴム腫[ゴムしゅ] |
心臓血管の症状 | 大動脈瘤・大動脈破裂・大動脈弁逆流症 |
脳神経の症状 | 記憶障害・妄想・痴呆 |
ゴム腫とは皮膚や筋肉、骨にできるゴムのような腫瘍のことです。全身のあらゆる場所にできることが特徴で、周辺の組織を破壊してしまいます。
現在では、比較的早期発見・治療が行われているため、3期まで梅毒が進行する症例は稀です。しかし3期の梅毒を放置すると、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期の治療が重要です。感染から3年以上経っている場合でも、医師の診断と指示に従い、適切な治療を受けることが大切です。
4期(10年~)
4期まで進行すると心臓や脳といった臓器に腫瘍ができるだけでなく、血管や神経に症状が現れます。歩行障害などを伴う脊髄癆(せきずいろう)になると、日常生活に支障をきたし、最終的に死に至ることもある危険な状態です。
梅毒によって損傷した脳や大動脈などの臓器は、梅毒の治療を受けても、元に戻すことはできません。しかし、3期と同様に4期まで進行するケースは、現在ほとんどみられない状況です。とはいえ、放置してしまわないよう、梅毒の疑いがあれば早期に医師に相談しましょう。
梅毒の治療について
「梅毒の症状はわかったけど、具体的にどうしたらいいの?」と不安になる人も多いと思います。梅毒は病院で検査を受けることで発見できます。病院を受診するために、ここまでで解説した梅毒の症状や見分け方を知っていることが大切です。ここからは、検査を受けられる時期や治療するにあたって大切なことをお伝えしていきます。
梅毒の検査はいつからできる?
感染した可能性のある日から4週間以上経過すると梅毒の検査を受けられます。期間を空けなければいけない理由は、「実際には梅毒に感染しているのに検査で陰性になる」可能性があるからです。
梅毒に感染した初期は、血液検査しても感染したことがわからない時期「ウインドウピリオド」があるので注意しましょう。検査は以下の方法で実施します。
- 血液検査(抗体検査)
- 病変から検体を採取して顕微鏡で観察する検査
- PCR検査
地域によっては、保健所で検査を「匿名・無料」で受けられる場所もあります。感染が疑わしい場合は、治療が必要になる可能性が高いので、病院やクリニックで検査を受けるほうがよいでしょう。
梅毒の治療方法
梅毒の治療では、ペニシリン系の抗菌薬を内服します。ペニシリンアレルギーがある人は別の抗菌薬を使用します。梅毒トレポネーマが中枢神経系に侵入している場合は、入院して点滴での治療が行われます。
ペニシリンの服用を開始した際、24時間以内に発熱や発疹、頭痛などの症状が表れることがあります。この症状は、菌が体内で大量に破壊されることによって起こる反応(ヤーリッシュヘルクスハイマー反応)です。一時的な反応によるもので、1日程度で改善します。
薬を服用する期間は梅毒の進行状況により異なります。次の期間が目安とされています。
梅毒1期 | 2〜4週間 |
梅毒2期 | 4〜8週間 |
梅毒3〜4期 | 8〜12週間 |
処方された薬の内服が終了してから、約1ヶ月経過後に再検査を行い、結果を見て梅毒が治癒したかを医師が判断します。梅毒トレポネーマはしっかりと治療しなければ悪化して再び症状が現れます。自己判断で治療をやめないことが大切です。
梅毒の注意点
ここからは梅毒に関する注意点をお伝えします。感染して重症化しないためにも梅毒のことをしっかりと理解しましょう。感染しないことが一番よいので、予防法もご紹介します。梅毒は完治しても何度も感染しますので、予防することが大切です。
梅毒は自然治癒しない
梅毒は抗菌薬を服用しなければ、自然治癒することはありません。しっかりと治療しなければ症状が悪化して、再び現れます。梅毒を放置することで、1期から2期、3期と進行し、心臓・血管・神経などが侵され、日常生活が困難になることも少なくありません。
症状が一時的に消えることがありますが、梅毒トレポネーマは体内に潜み増殖し続けます。繰り返しになりますが、梅毒に感染した場合は早期の治療が大切です。疑わしい症状がある場合は、医療機関で検査を受けましょう。
梅毒に感染しないために
梅毒は一度治癒しても、感染者と接触すれば、何度も感染します。
感染しないことが大切ですので、以下の対策を行いましょう。
- コンドームを着用する
- 梅毒患者との性行為を避ける
- 不特定多数との性交渉を避ける
コンドームは、性行為の始めから最後まで着用する必要があります。正しく着用することで感染するリスクを下げられます。オーラルセックスやアナルセックスの際も着用しましょう。ただし、コンドームで覆っている部分以外から感染する可能性もあるため、100%予防することはできません。
キスも含めた性的接触はパートナー1人に限定し、コンドームを適切に使うことで感染リスクを下げられます。
まとめ
この記事では、梅毒の症状や口内炎との違い、治療方法について解説しました。
梅毒は、近年感染者数が急激に増加し、社会問題になっています。感染力が強い梅毒ですが、コンドームを正しく着用することで感染を予防できる病気です。感染してしまった場合は、初期時点で治療を受けることで治癒できます。
口内炎が2週間経っても治らない場合は、勇気を持って医療機関に受診することをおすすめします。感染が疑われる場合は、感染機会から4週間以上経過してから検査を受けるようにしましょう。
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